斎藤課長の一夜の過ち
※書下ろし部分のサンプルです。
※18禁です。(サンプル部分はそれほどきわどくないです)
その日、千鶴は風邪をひいていた。
いや、正確に言うと風邪の引き終わりだった。
斎藤と千鶴の退職を取りやめ、いつもの日常に戻ってしばらくしてから。
暑さがこたえたのかクーラーで冷えすぎたのか、千鶴は風邪をひいてしまった。高い熱が三日続いたが医者からもらった薬と斎藤の献身的な看病で、昨日の夜から熱は平熱にもどった。
『三日の間軽いものしか食べていない。体力も戻っていないだろうし今日は金曜日でそのあと三連休だ。今日は休んでゆっくり体を治してから来週あけに出社した方がいい』
心配性の斎藤の言葉に従って、大事をとって千鶴は今日も休んでいた。
そんな千鶴から、会社で仕事をしている斎藤に電話が来たのだ。業務終了時間間際。なにかあったのかと斎藤はスマホの通話ボタンを押しながら、人通りがない廊下の一番奥に大股で移動した。
「千鶴か? どうしたのだ」
『一さん、今、お話しして大丈夫ですか?』
「ああ、体調がまた悪くなったのか? もしそうなら、今日の総司たちとの飲み会はキャンセルして帰るが」
『いえ、そうじゃなくて……』
言いづらそうに口ごもる千鶴に、斎藤は心配になる。「どうしたのだ」
『朝、今日も寝てるようにって一さんに言われて、私、一さんが出社してからお薬を飲んでまた寝たんです。そしたら夢を見て』
「……夢?」
『いえ、夢っていうか夢じゃなくて……私、思い出したんです』
「思い出した……何をだ?」
『あの夜。あの祝賀会の夜、何があったのか思い出しました』
つかつかとすごい勢いで通路脇を通り過ぎた斎藤に、沖田が声をかけた。
「あ、斎藤君。千鶴ちゃん元気だった? 今日、飲みに行けそう?」
千鶴が風邪で休んでいること、彼女の体調次第では今夜の飲み会は行けないことをあらかじめ聞いていた総司は、それを確かめる。昼食の時は、昨夜から熱も下がってるから大丈夫だとは言っていたけど。
斎藤は妙に硬い顔で振り向くと、今度はつかつかと総司に向かって歩いてきた。
「行けなくなった」
「え? また熱あがっちゃった?」
総司がそう聞いたとき、一緒に飲みに行くはずだった平助もやってきた。「何? 千鶴、また具合悪くなったのか?」
斎藤は首を横に振った。「いや、千鶴は元気だ」
平助と総司は顔を見合わせる。
「じゃあ、飲みに行けるってこと?」
「いや、家に帰らせてもらう。すまない」
「家に帰んの? 何か問題でも起こった? 助けがいるなら……」
千鶴が元気なのに斎藤が家に帰らなくてはいけない、しかも前々から総司たちと約束していた飲み会をキャンセルして……となると、なにか相当困ったことが起きたのではないか。平助の質問に、斎藤はきっぱりと答えた。
「いや、大したことは起きていないが、飲み会より大事な事が起きた」
まっすぐな瞳できっぱりとそう言われて、総司と平助は、「あ……そう」「がんばれよ」としか答えられない。
斎藤は「じゃ」と会釈するとくるりと向きを変え、呆然としたままの総司と平助をのこして、またつかつかと立ち去った。
ガチャっという音がして斎藤が帰ってきたので、千鶴は驚いてベットから起き上がった。
『すぐに帰る』と言って電話をきったけど、それからまだ五分しかったっていない。
「早かったですね」
寝室から顔を出すと、靴を脱いでいた斎藤と目があった。汗が額ににじんで息が荒い。走って帰ってきたようだ。
「そんな急いで帰らなくてもよかったんですけど……飲み会はいいんですか?」
千鶴の言葉が聞こえていないように、斎藤はつかつかと千鶴に歩みよると両肩をつかんだ。
「……思い出したのか」
その迫力に、千鶴は目を見開いてうなずく。「は、はい」
「俺は……いや、お前は、どこで……いや、そもそもどうやって……」混乱して思考も言葉もまとまりがない。それに自分でも気づいたのか、斎藤は手を放して深呼吸した。
「一さん、とりあえず着替えて落ち着いてからゆっくり話しましょう? おかえりなさい」
「いや、すぐに知りたいのだ。いろいろ知りたいが、最初から、時系列で一つ一つ教えてくれ」
廊下で立ったままそういわれて、千鶴は斎藤の迫力に飲まれてうなずいた。
「は、はい。えーっと一さんがワインを出してきてくださって……」
「ワイン? その前に俺はどうやって部屋にお前を誘ったのだ?」
「え? 普通に…」
「普通にとは? どのような言葉で? ……ああ、そうだ、いっそ二人でやり直してみたいのだがどうだろう?」
斎藤はそういうと、カバンを持って玄関へと行きかけた。そして思いついたように千鶴を振り返る。
「お前も、あの時着ていた服に着替えてもらえないだろうか」
千鶴はぱちぱちと瞬きをした。
「ふむ、なるほど。玄関で、か」
「そうです。唐突に『ワインが好きなのだろう?』って言って、扉を開けて私が通るのを待ってる様子だったので、『あ……じゃあ、失礼します…』って入ったんです。そのまま帰っちゃうとまた一さんが外に出て飲みに行っちゃうんじゃないかと思って、とりあえず家でお酒をグラスに入れて手に持って飲みだす状態にしてから帰ろうと思って」
「いろいろとすまないな……で?」
「それで、二人でリビングへ行って……」
斎藤は今日のスーツのまま。千鶴はわざわざその時着ていた薄紫色のブラウスと、アイボリーのスカートにストッキング姿だ。リビングに入り、ワインと焼酎をそれぞれグラスに入れてソファに座るまでは、特にそんな雰囲気ではなかったらしい。
「で、一さんが、『こっちに来てみるといい。桜がきれいだ』って言ったんで、私もならんで窓のところに立って」
「その時お前は何と言ったのだ?」
「え? 私ですか?」
なぜそんな細かなセリフが知りたいのだろうと千鶴は驚いたが、斎藤は大まじめだ。先ほども、『俺もできれば思い出したいのだ。どんな言葉がきっかけで思い出すかわからん。できるだけその時の言葉を教えてほしい』と言っていた。
「えーっと、よく覚えてないんですけど、たぶん『わあ、ほんと。きれいですね』って……」
言っているうちに思い出した。そうだ、本当にきれいだったのだ。
うっすらとライトアップされている夜桜を上からのんびり眺めるなんて、そうそうできることではない。千鶴が夜桜に見とれていると、となりで斎藤がぽつりと言った。
『……雪村と一緒に見られたら、と思っていたのだ』
『え?』
千鶴が桜から目を離して斎藤を見ると、斎藤は妙に真剣な目で千鶴を見ていた。
「真剣な目……なるほど。こんな感じか?」
「ああ、はい。そうです。そんな感じでした。お酒に酔っていて少し目じりが今よりほんのりしてましたけど」
今、窓の前で隣に立って真剣な顔でこちらを見ている斎藤に、千鶴はうなずいた。
「それで、私が驚いていたら……」
「驚いていたら?」
「『最初に落ちてくる花びらの一枚を、お前と一緒に見たかった』ってもう一度……」
「待て、言ってみる。『……最初に落ちてくる一枚を、お前と一緒に見たかった』……こんな感じでどうだろうか?」
「そうです! 似てます」
記憶の斎藤と同じで千鶴が思わず拍手をすると、斎藤は笑った。
「似てるといっても同じ人間だからな。しかし我ながら相当酔っていたのだな。よくそのような甘いセリフを言う度胸があったものだ。それでお前は何と答えたのだ?」
興味津々という様子で聞かれ、千鶴はその時の様子を思い浮かべる。
「同じ言葉を繰り返した覚えがあります」
「その時のように言ってみてくれ」
「『きれいです。とても』」
千鶴がその時のように斎藤を見上げながら言うと、斎藤はじーんとその言葉をかみしめるように小さくうなずいた。
「『お前なら、そういってくれると思った』」
千鶴が伝えたように斎藤が言う。
「そうしたら……一さんは、そのう……私の少し後ろに立ってたんですが……」
斎藤の腕が千鶴の体に回され、千鶴は驚いた。そのまま後ろから抱きしめられる。
斎藤は驚いた顔で千鶴を見ている。
「信じられん……よくそのような大胆な真似を……殴られたり訴えられても文句は言えない真似を……この俺が」
「お酒って怖いですよね」
驚きながらも斎藤は、その時と同じように後ろから千鶴を抱きしめた。
「何か思い出しましたか?」
斎藤はしばらく考えたが思い出せない。
斎藤は探るように顔を寄せた。千鶴が肩越しに少し顔を向けると、斎藤の唇が柔らかく触れた。
「んっ……」
唇を合わせた後、斎藤が歯でからかうように千鶴の下唇を軽くかむ。そして暖かく湿った舌が……
「ま、待ってください、それは、まだ……」
「舌は……入れなかったのか?」
キスしたせいか斎藤の呼吸が少し荒い。会話をしながらも斎藤は千鶴の唇をもう一度味わう。
「あ……、ん……そう、です。舌は……」
千鶴が『舌』といった言葉に興奮したのか、斎藤の舌がまた滑り込む。
「ん……、っあ……だ、だめ……」
斎藤はしばらく味わった後「舌は入れなかったのだな」と、唇を離した。
「それで……こうか?」
斎藤は千鶴から指示があった通りに千鶴を自分に向きなおらせる。そして窓ガラスと自分の間に千鶴を閉じ込めて、改めて深く唇を合わせた。
「ん……、そ、それで……あっ……だめ、うなじにはこの時はまだキスは……み、耳もだめです。あんっ……だめって言ってるのに……」
斎藤の唇は指示通りに千鶴の唇に戻り、次は窓ガラスにい置かれていた腕が千鶴のウエストに回された。
「……はあっ……こうして……?」
「そう、です……そのあと、ブラウスのボタンを……」
「上からか? 下からか?」
「……上から二つ目と三つ目をいきなりはずして………」
するりと入ってきた手が、千鶴の胸をブラの上から触った。
「お前は拒絶しなかったのか?」キスの合間に斎藤が聞くと、千鶴は首を横に振った。
「キスが……気持ちよくて……私も酔っ払ったみたいになって……」
『……っ…!』
ブラの下に指をいれ敏感な先端を中指の先で触れると、千鶴が息をのんで背筋をそらすのが分かった。斎藤はそのまま中指の腹で先端の突起をゆっくりと円を描くように撫でた。
初めての刺激に驚いたのか、千鶴が斎藤のYシャツをつかむ。
『あ…っ』
「あ……っは、はじめさ、ん…! あっ」
斎藤は千鶴の耳たぶを指でくわえながら訂正した。
「その時は『斎藤課長』ではないのか。言い直した方がいい」
「さ、斎藤かちょ……あっ…」
斎藤の舌が千鶴の耳に入り込む熱い息がかかる。斎藤の手は千鶴の指示なく千鶴の背中に回されるとプチンとブラのホックを外した。
「そう、……です。次に斎藤課長はそうして……思い出したんですか……?」
「いや。こうなれば当然次はこの行動しかない」
言いながら斎藤は手のひらで、素肌の千鶴の胸を包んだ。
斎藤はネクタイをつけたスーツ姿。千鶴だってオフィスにいた時のままの服で、胸の最低限のボタンだけ開けられて隙間から胸をもまれているこの状況は、あまりにも興奮する。斎藤も千鶴も息が荒くなっていた。
「一さん……私、もう……」
新婚生活も半年以上過ぎ、毎夜斎藤にまわりくどく開発されている千鶴は、もうすっかり我慢ができなくなっていた。しかし斎藤は止める。
「いや、あの時のまま最後までやりたいのだ。それで? 胸のあと、俺はどうしたのだ?」
・
・
・
・
こんな感じで進む、単なるエロエ〜ロです\(^o^)/