【無自覚ラブ 書下ろし】SAMPLE 

結婚までにしなくてはいけない八つのステップ


「あれ、それ買って来たの?」
ドアのチェーンを開けに来てくれた千鶴と一緒に部屋に入った総司は、千鶴のおこた兼用の小さな白いテーブルの上に載っているぶ厚い雑誌を見て、そう言った。
千鶴は少しだけ赤くなって言い訳するように言う。
「私も初めてだからよく知らないですし……一度買ってみようかなって」
その、表紙にウェディングドレス姿の女性が載っている分厚い雑誌は当然『セグシィ』だ。
総司はネクタイをはずしYシャツを千鶴の洗濯器につっこんで、、既にかなり持ち込んでいる自分の私服の中からTシャツとハーフチノに着替える。
「ふーん。僕は特に式には興味ないからなあ、千鶴ちゃんのいいようにしてくれたらいいよ」
靴下を洗濯機に入れながら、お風呂ははいっているかとバスルームを覗いた総司に、千鶴が膨れながら言った。
「ダメですそんなの。二人の式なんですから一緒に考えてください」
「え〜?あ、僕先に風呂入っていい?」
バスタオルを勝手に取り出して、先ほど着たばかりのTシャツを脱ぎだした総司に、千鶴は「どうぞ」と言って、夕飯を暖めなおすためにキッチンに向かった。

もちろん二人はまだ結婚していない。しかしできるだけ一緒にいたい。
結婚準備には半年はかかるというが、その間会社で会って時々デートするくらいでは耐えられない(主に総司が)ということで、二人は今、週末同棲のような形で毎週生活していた。
つまり、金曜日の夜に総司が帰るのは千鶴のマンション。そこから土曜日日曜日は千鶴のマンションで生活して、月曜日の朝は千鶴の部屋から一緒に会社へ出勤。月曜日から木曜日の夜は、しょうがなく総司は自分のマンションへ帰る。もちろん夜に残業のない日は一緒に夕飯を食べたりデートもする。
そんな、ほぼべったり状態なのにもかかわらず、毎日一緒にいられないのはとてもつらい(主に総司が)。プロポーズはもう済んでいるのだから式とかなんやらよくわからない儀式はすっとばした早く結婚……というより一緒に暮らしたいのだ(主に総司が)。
総司はいつもそんなことを言って寂しがったり我儘を言ったりして千鶴を困らせる癖に、具体的なステップは踏もうとしないので、今日千鶴は一歩前にすすもうと結婚情報誌を買って来た。しかし先ほどの総司の、興味がなさそうな言葉では先が思いやられる。
千鶴だって初めてなのだから、結婚を決めたらじゃあまず何をすればいいのかなどわからないのだし、いっしょに勉強してくれないと困るのだ。

よし!今日はまず「一番最初は何をすればいいか」だけ、ちゃんと一緒に決めよう。

千鶴は夕飯のカレーライス(昼間の仕事中に、千鶴の社用メールアドレスに総司からリクエストがあった)をかき混ぜながら決心したのだった。

食後、早速千鶴の膝枕でいちゃいちゃしようとしだした総司をなだめて、とりあえず千鶴はコーヒーを二人分淹れた。
白い机の上に結婚情報誌を総司にも見えるように乗せて、パラパラとめくっていく。
「ほら、沖田さん。ここ見てください。式に必要なお金と、新居や新婚旅行に必要なお金、こんなにいるみたいですよ」
「うわっ結構かかるね」
「それから、引っ越しもしないといけないですし役所関係と……私は苗字が変わるから身分証明書とか銀行口座とか全部変えないと。一日、そういう変更手続きを集中してやる日を作った方がいいって書いてありますね。有給をとる日をあわせてとって、一緒に行かないと」
「えー、せっかく一緒の平日に休みとるなら役所なんて行くよりディズニーシーに行きたいなぁ」
「……沖田さん」
くるくると千鶴の髪をもてあそびやる気のなさそうな総司に、千鶴は溜息をついてさらにページをめくった。
「あっここにこんな特集がありますよ。式までにやらないといけないことが順番に書いてあるみたいですね。『結婚までにしなくてはいけない八つのステップ 』」
千鶴の指差した場所を総司も覗き込んだ。
「えーっと何々……?『ステップ1……』」



■ステップ1 双方の両親に結婚の報告をしましょう

■ステップ2 彼女のかわいい失敗を優しく許してあげましょう

■ステップ3 家族と相手のことについて話しましょう

■ステップ4 ケンカをしてもすぐに仲直りをしましょう

■ステップ5 たまには惚れ直してみるのもいいかもしれません

■ステップ6 時々いちゃいちゃすることも忘れずに

■ステップ7 やきもちは二人のスパイスにするといいでしょう

■ステップ8 結婚式はスタートラインです。末永くお幸せに



※こんな感じでステップごとにお話が一話入っています。