子どもが夜遅くに熱をだしました。
■土方さん
「何度あるんだ?」
「……38.6度です……」
赤ちゃんは湯たんぽのように熱いが意外に元気で、ぷくぷくした腕で千鶴の髪を掴もうとしている。
千鶴から差し出された体温計を見て、土方は熱の高さに青ざめた。
「山南さんに電話するか」
「えっ!今からですか?もう夜中の12時過ぎてますよ?」
既に携帯電話を操作しだしている夫に、千鶴は慌てて言った。土方と山南がいくら旧友だと言ってもさすがに非常識な時間だろう。
しかし土方は千鶴の抗議はものともせず、携帯電話を離そうとはしない。
「迷惑かけて申し訳ないがこっちも非常事態だ。医者の知り合いはあの人しかいねえし、しょうがねえだろう」
「ひ、非常事態というか……!山南さん、確かにお医者様ですけど専門は脳外科ですよ…!?」
「「……」」
一瞬二人で黙り込み見つめあう。納得してくれたかと千鶴が思った直後に、土方は言った。
「だからなんだ。医師免許は持ってるじゃねえか」
ピッと通話ボタンを押して呼び出し音を聞いている夫に、千鶴はあきらめて溜息をついた。
「あ、もしもし山南さん?俺だ。土方だ。寝てたって?ああ、悪いな。実はうちの子が……」
強引に話し出した土方を見て、千鶴は今年の山南へのお歳暮は奮発しようと心に決めた。夫が日頃かけている迷惑を少しでも謝っておかなくては。
電話をしたのは今夜だけではないのだ。
その前の時は早朝だった。赤ちゃんのしゃっくりが止まらないという土方からの電話に、山南はどこまで本音かわからなが丁寧に対応してくれた。その前は日曜日の夜。赤ちゃんのうんちが出ないという電話。山南は友人とフランス料理を食べている最中だったらしい。
いつもの倍のお値段のお歳暮にしようと千鶴は心に決めた。
(頼りになるのかならないのか……(^_^;))
■沖田さん
「何度?」
「……38.6度です……」
千鶴は熱の高さに青ざめた。こんなに高い熱を出したのは初めてだ。
赤ちゃんは意外に機嫌がよく、おしゃぶりであそんでいるのだが。
時計をみると夜の12時すぎ。当然いつもい行っている病院は終わっている。
「元気そうだし、明日まで待っていつもの病院に行けばいいんでしょうか?それとも救急車を呼んだ方がいいんでしょうか?」
新米ママでは判断がつかない。明日の朝まで待ったせいで症状がひどくなってしまったり手遅れになったらどうしよう。
でもこんな夜中に開いている病院はないし……!
千鶴がパニックになっている横で、カタカタとパソコンをいじっていた総司が立ちあがった。
「行こうか」
「え?どこにですか?」
総司は眼鏡を外しながらサイフと携帯電話をジーンズの尻ポケットに入れる。
「病院だよ。夜間救急ってたいてい地域ごとに指定病院があるんだよ。行き方調べたから車で行こう」
慌てすぎていて総司がなにをやっているのかまで気が回らなかったが、調べてくれていたのか。でもそんな夜間救急なんてタダの風邪かもしれないのに行ってもいいのだろうか……
千鶴が疑問をそのまま口に出すと、総司は肩をすくめた。
「夜間救急にまで行く必要はないかもしれないけど、千鶴がそれで安心するでしょ?行かなかったらどうせ一晩中大丈夫かなって心配し続けてると思うし。さ、行こ。おむつ持った?」
さくさく決めて行動に移す頼もしい夫に、千鶴は慌てて準備をしたのだった。
(行動力がありそうなイメージです)
■斎藤さん
「何度だ?」
「……38.6度です……」
夜の8時過ぎから急に上がりだした赤ちゃんの熱。熱が高くてしんどいのか赤ちゃんはずっとぐずっており、斎藤が会社から帰って来るまで抱っこし続けていた千鶴は、もうくたくただった。
「どれ、俺が抱いていよう。千鶴は食事をしていないだろう?食事をして風呂に入ってくるといい」
「でも病院とか……」
「それも、千鶴が風呂から出たら考えよう」
大丈夫だろうか……と思いながらも、ずっと立って歩いてあやしながら抱っこしていた千鶴は正直言ってありがたかった。急いで冷めてしまった夕飯を食べて、さっと風呂に入ってくる。
風呂から出ると、家の中から赤ちゃんの泣き声がしない。あんなにぐずって泣いていたのにどうしたのかと、千鶴があわてて家の中を探すと、斎藤が赤ちゃんを抱いたままソファに座っているのを見つけた。
千鶴がそーっと覗き込むと、赤ちゃんは斎藤の胸にもたれて眠っている。斎藤は何故か上半身裸で、下はスーツからジーンズに着替えていた。
「……寝ちゃったんですか?」
赤ちゃんを起こさないように千鶴が小さな声で聞くと、斎藤は微笑みながらうなずいた。
「病院に行く準備をしようと着替えていたのだがな。裸で抱いたら泣き止んで、そのまましばらくしたら眠ってしまった。きっと平熱の素肌がひんやりして気持ちよかったのだろう」
よく見ると、赤ん坊の方も着ていたおくるみを脱がされ薄い肌着だけになっている。
「……熱かったんですね……」
「そうかもしれんな。気持ちよさそうに寝ているから病院はいいだろう」
よかった……千鶴はほっとして、へにょへにょと床に座り込んだ。そしてハッと気が付く。
「でも、一さんは夕飯とかお風呂とか……そのままだと寝れませんし……」
「大丈夫だ。お前は明日もこの子の看病をしなくてはならないのだろうし、寝るといい」
そうして結局斎藤は朝までそのまま赤ちゃんを抱いて寝かせて、次の日もしっかり会社に行ったのだった。
(赤ちゃんにもお母さんにも優しそう)
■平助君
「何度あんの?」
「……38.6度……」
数字も高いが触った感じも湯たんぽみたいに熱い。もともと丈夫であまり熱を出さない千鶴にとって、赤ちゃんの初めてのこの熱は恐怖以外の何物でもなかった。
「ど、どうしよう平助君!クスリとか赤ちゃん用の無いの。この育児書読むと、使う食器は全部殺菌消毒しなくちゃいけないって書いてあるのに、私昨日消毒してないスプーンで離乳食を食べさせちゃって……!だからこんな熱が出ちゃったんだと思う!」
真剣に言っている千鶴に、平助は目をぱちくりさせた。
そして千鶴に抱かれている赤ちゃんを抱き取り、赤ちゃんの顔をよーく見る。赤ん坊はにらめっこのように覗き込んできた父親の顔が面白かったらしく、一瞬キョトンとしたあとに声を出して笑った。
「……だいじょーぶだよ!こいつは機嫌いいし目もくりくりしてるし。食欲は?」
「食欲?」
パニックになっていた千鶴は、平助の質問で夕飯を思い出した。いつも通り赤ちゃんは、食べ物をぐっちゃぐちゃにしながら食べていた。
「食欲は……いつもと同じ…だったかな?」
平助はうなずいた。
「うし!まあ今夜は寝よーぜ。明日の朝になっても下がってなけりゃ病院行けばいいと思う。明日いつもの病院やってんだろ?」
「……」
うん、とうなずく千鶴に平助はにかっと笑った。
「じゃあ大丈夫!」
何の根拠もない言葉なのに、平助が言うと何故か信じられる。動転していて気が付かなかったが、そういえば赤ん坊の様子は、熱が高いことをのぞけばほぼいつもと同じだ。機嫌よく遊び、食欲もある。
少しだけ冷静になれた千鶴は、夫の頼もしい言葉に安心しながらうなずいたのだった。
(なんというか野生のカンみたいのが鋭そうなイメージで、こういうことは信頼できる気がします)
■左之さん
「な、何度あるんだ?」
「……38.6度です……」
「さんじゅうはちい!?」
裏返った声で驚く夫を、千鶴は驚いて見た。左之は、千鶴に抱かれている赤ん坊の額に大きな手をあてて心配そうに言う。
「大丈夫なのか?救急車呼んだ方がいいんじゃねえのか?」
「きゅ、救急車ですか?」
今度は千鶴の言葉が裏返った。
「熱は高いですけど食欲もあるし機嫌もいいし、多分明日いつもの小児科にいけば大丈夫だと思います」
「でもこいつは熱でしんどいんじゃねぇのか?」
左之に訴えられて千鶴は目を瞬いた。左之は今にも泣きそうな顔で、機嫌よくニギニギで遊んでいる赤ちゃんの顔をのぞきこむ。
「かわいそうになあ……俺がかわってやれれば……こんなに小さいのにこんなに高い熱がでて……」
本当につらそうに呟く夫に、千鶴は溜息をつく。
「赤ちゃんはそんなに熱はつらくないんですよ。ほら、左之助さんもそろそろ寝ないと明日の会社に障ります」
なんとか夫をベッドに寝かしつけることができたが、その夜左之は赤ん坊が「ふえ……」と言うたびに飛び起きて赤ん坊に駆け寄り、
「大丈夫か?」「どっか痛いのか?」と心配していたのだった。
(女子供の痛みには弱そうなイメージです)
皆様のお好みの「熱がでた赤ちゃんの看病し隊士」は誰ですか?
RRAは沖田さんか斎藤さんか平助君です。土方さんと左之さんは困りますねー
一人選ぶなら……ううーん…今後の育児も考えると野生のカンを持つ平助君かな〜
☆皆様のお好みの看病し隊士☆
土方さん……0人
沖田さん……11人
斎藤さん……1人
平助君 ……4人
左之さん……1人
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