重い足を引きずって自宅マンションのドアの前までくると、千鶴は大きく深呼吸した。
今日は金曜日。半同棲状態のあの人が来ていて、お休みを一緒に過ごすいつもの週末の予定。
本当なら手作りのハンバーグを作ってあげようと思って材料も買ってあったのだけれど、職場で思いもよらないトラブルや失敗が続いて帰宅がこんなに遅くなってしまったのだ。連絡はしたので、きっとあの人は一人で夕飯を食べたに違いない。
彼だって一週間仕事をして疲れているはず。だから暗い顔なんて見せちゃダメ……
千鶴は気持ちを切り替えようと、何度も深呼吸をする。
とその時中からドアが開いて……
■土方さん
「……なんだお前、そんなところでつったって。早く中入れよ外寒いだろ?」
室内の灯りと共に招き入れられた千鶴は、促されるまま靴を脱ぎマフラーをはずす。
「今日すいませんでした。約束やぶっちゃって……」
寝室のクローゼットにコートをかけながら、千鶴が謝る。土方はベッドに腰掛けて、そんな彼女を見ていた。
「いや、別に構わねよ、そんなこと。それより……どうした?」
クローゼットの扉を閉めながら、千鶴は笑顔で振り向く。
「どうしたって何がですか?」
そう言いながら居間へ行こうとベッドの横をすり抜けた彼女の手を、土方は握った。
「何がじゃねぇだろう、そんなツラして。座ってみろ」
強引に自分の隣に座らせて、土方はマジマジと千鶴の顔を見た。
「ったく、また我慢しやがって……!お前の愚痴ぐらいなんでもねぇんだよ。ほら話してみろ。楽になるぜ?」
土方の優しい笑顔と、ポンと頭に置かれた暖かい手に、千鶴の瞳からは涙がほろほろと零れ落ちたのだった。
(原因究明型。いつもは厳しいくせに本当にしんどい時は優しくしてくれそう。そんなことされたら、そりゃグラッときますって!)
■沖田さん
「……どうしたの?」
開口一番にそう聞かれて、千鶴はそんなに自分は表情を隠すのが下手なのかと苦笑いをした。
「ちょっと…会社でいろいろあって…。でももう大丈夫です。夕ご飯は何か食べました?」
千鶴はコートを脱いで、寝室の電気はつけないままクローゼットにコートをかけた。廊下からの灯りでぼんやりと部屋の中は見える。
総司は寝室の入口に立ち、逆光のせいで表情は見えないが、こちらを見ているようだった。
「うん、まぁ…ポテチとビールくらい?」
総司の返事に千鶴は笑顔で振り向いた。
「もうっ!それって夕飯じゃないじゃないですか。ちゃんと食べないと……」
総司が無言のままこちらへ歩いてくるので、千鶴の言葉はしりすぼみに途切れた。これだけ近ければ逆光でも総司の表情はわかる。
彼はとても哀しそうな優しい瞳をしていた。微笑んでいるけど泣いているような……
「……」
総司の表情に目を見開いている千鶴に、彼の暖かい腕が回される。
何も言わずに抱きしめてくれるその安心感に、千鶴は全身の緊張が抜けるようにホッとした。そしてこれまで自分がこんなに力が入っていたのかと気づく。
千鶴の頭に頬を載せながら、総司が呟くように言った。
「何もしてあげられないかもしれないけど……傍に居させて…?」
彼の言葉に、凍った心が溶けて行くように感じた千鶴は、その暖かい腕の中で初めて涙を流したのだった。
(一緒に泣いてくれる型。スキンシップをたっぷりとって慰めてくれそう。)
■斎藤さん
「何故こんなところで立っている?」
不思議そうに尋ねてくる斎藤に、千鶴はにっこりとほほ笑んで「ただいま帰りました」と言った。
深い蒼の瞳を見ていると、心の中まで見透かされそうで、千鶴は視線を外すとコートを脱ぎながら寝室へ入る。
「今日、遅くなってしまってスイマセンでした。あの……」
「いや、大丈夫だ。仕事だからいろいろあるのはわかる。ゆっくり着替えてくるといい」
斎藤はそう言うと、キッチンの方へと歩いて行った。
斎藤の言葉に甘えて、千鶴はゆっくりと着替えて、ゆっくりと手を洗いうがいをする。鏡の中の自分に向かってにっこりと笑顔を作ると、それを維持したまま千鶴は居間へと歩いて行った。
「夕ご飯はどうされたんですか?」
キッチンを覗きながら千鶴が聞くと、鍋を火にかけていた斎藤が返事をする。
「俺はもう食べた。冷蔵庫にミンチがあったからミートローフを作ってみた……が、お前に必要なのはこっちだろう?」
斎藤はそういうと、ダイニングテーブルの席に座っていた千鶴の前に、トンと湯気が出ているマグカップをおいた。
千鶴が覗き込むと……
「柚子茶…?」
甘酸っぱい香りが鼻をくすぐり、がちがちに固まっていた首筋からふっと力がぬける。斎藤は頷くと、優しく微笑みながら言った。
「好きだろう?まずはゆっくりのんで落ち着くといい。きっと事態は意外にそんなに悪いものではないと思えるだろう」
多分彼は、千鶴が思い悩んでいることを知っていて、でも無理には聞き出そうとしないでくれて、それでも話したいならきっと聞いてくれて相談にも乗ってくれて……
斎藤の包み込むような優しさに、千鶴の唇に心からの笑顔が浮かぶ。
「……ありがとうございます」
千鶴はそうつぶやくと、柚子茶のいい香りのかいでから、暖かい液体を一口口に含んだのだった。
(何も聞かず千鶴が自分で立ち直るのを助けてくれる型。見守る様な慰め方をしてくれる気がします。)
■平助君
「…こんなとこで何してんの」
あっけにとられたような平助の表情に、千鶴は思わず微笑んだ。
「ごめん。ちょっと……いろいろあって考えちゃってた」
「いろいろってなんかあったんか?」
部屋に入りコートを脱いでいる千鶴に、平助が聞く。
「うーん……あったようななかったような……ところで平助君、夕飯ごめんね。どうしたの?」
「あ?ああ、メールもらった時駅でさ。帰りにお好み焼き食ってきた」
そっか〜と言いながら居間へと移動する千鶴に、平助もついてくる。
千鶴が冷蔵庫を覗いていると、平助が突然叫んだ。
「ごめん!」
何事かと、千鶴が目を見開いて冷蔵庫から平助へと目を移すと、彼は両手を顔の前で合わせて祈るような形にして謝っていた。
「俺って鈍くてバカでさ、わかんねーんだよどうすりゃいいのか。千鶴がなんかあってつらいって感じてるのはわかるんだけど!」
すごい勢いで言われて、千鶴はポカンとしたままうなずいた。
「やっぱり?なんかあったんだろ?俺ってどうすればいい?どうしてほしい?そっとしておいてほしけりゃ、外の漫画喫茶にでも行って夜遅く帰って来るし、傍にいて欲しけりゃいるし!言って!」
頬を真っ赤にして汗を少しかいて必死に言ってくれる平助に、千鶴は胸が熱くなり、泣きたいのか笑い出したいのかわからなくなる。
そして自分から平助の腰へと腕を回すと、そっと寄り添った。
「……傍にいて欲しい…」
(ストレート型。裏も表もなく『平助!』って感じでなぐさめてくれるかと。(←どんな感じでしょうか…))
■左之さん
「お前……こんなところで、どうした?」
左之の顔を見た途端、なぜだか千鶴の瞳には涙があふれた。
「さっ左之しゃん……っ」
涙をこぼすだけではなく、胸がえづくような「ひっく」「ひっく」という音とともに盛大に涙が流れ出す。
「ああ〜……どうしたんだよ、お前。ほらとりあえずあがれ」
千鶴の肩を優しく抱いて招き入れ、左之は玄関のドアを閉めた。そのまま玄関で抱きしめて、千鶴が落ち着くのを待ってくれる。
こんな子供のような泣き方は最近してなかったな……と千鶴は頭の隅で思いながら、左之の腕の中で声をあげて泣きじゃくった。
しばらくして千鶴の泣き声がやみ、「ひっく」もだいぶ少なくなった頃、左之が腕を緩めて顔を覗き込んできた。
「あ〜あ、ひでえ顔だな」
ぷっと吹き出す左之に、すっきりしたのか千鶴も思わず吹き出した。
確かに涙で顔はぐちゃぐちゃで、化粧もおちているだろう。いきなり帰って来るなり泣き出して、左之はびっくりしたに違いない。
「あ、あの……すいません。突然こんな……」
ふいに我に返り、左之に申し訳ないことをしたと千鶴が慌てだす。そんな千鶴を、左之は優しい瞳で見て言った。
「……よし、これからラーメンでも食べにいくか!あの街中の行列ができる店なんでどうだ?夜のドライブがてらさ。気分かわるぜ?」
「こんな夜にラーメンなんか食べたら、太っちゃいます」
家で何か軽く作ります、今日は約束やぶってすいませんでした…と言い出した千鶴の額を、左之は人差し指で軽く小突いた。
「んなこと気にしなくていーんだよ。太っても痩せててもお前はかわいいんだからよ。ほら、だからかわいい笑顔見せてみろ、ん?」
冗談のように慰めてくれる左之に、千鶴は最高にかわいい笑顔をみせたのだった。
(気分変えてくれる型。夜のドライブ+ラーメンでかなり気持ちは持ち直すと思うんですがどうでしょう?)
■皆様のお好みの慰め隊士は誰ですか?RRAは……土方さんです。でもみんな優しいのでまとめて家に置いときたいですね〜。
☆皆様のお好みの慰め隊士☆
土方さん……9人
沖田さん……7人
斎藤さん……1人
平助君 ……2人
左之さん……3人
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