陣痛が始まりました。
■土方さん
「遅いです!!」
横たわった千鶴に怒られて、土方は目をぱちくりさせた。まだ立会い用の白い手術着のようなもののボタンもはめている途中のまま、新妻に初めて怒られた土方はぼんやりと千鶴を見る。
「ほら、お父さん!ぼんやりしてないでお母さんの手を握ってあげて!」
ベテラン看護婦の容赦ない叱責が飛ぶ。
「遅れてきたんだから最後くらいはがんばってあげてくださいよ!」
看護婦の言葉に、土方はムッとする。
「遅れてきたって、これでも仕事を途中できりあげてきたんだ。そもそも予定日よりも一週間も早くて…」
「ぐちぐちうるさい!ほらお母さん、陣痛きたでしょ、イキんで!…そうそう!息を止めないで、ほらまた叫んで!さっきの!」
「歳三さんのばかぁ!!」
「っなっ…!」
千鶴の手を掴んで、一緒に体に力をいれていた土方はその言葉に驚いた。
「なんだ今のは」
陣痛の波が収まった千鶴の額の汗を拭きながら、看護婦が言う。
「こう言うと上手くイキめるのよね、この奥さん。これもお父さんの仕事だからね。ののしらせてあげてくださいね」
陣痛と陣痛のインターバルで呼吸を整えている千鶴が、申し訳なさそうに土方を見上げて言う。
「ごめんなさい…でもこれを叫ぶととっても楽にイキみがのがせるんです……あっまた…!!」
「ほら、叫んで、せーの!」
「歳三さんのばかぁ!!」
(土方さん、意外に立会いしそうな気がします。)
■沖田さん
「総司さん…すいません、夜中に。陣痛きたみたいなんで、車だしてもらえますか…?」
千鶴の言葉に、ベッドで眠っていた総司は飛び起きた。
「来たの!?大丈夫!?」
千鶴は弱弱しく微笑みながら言う。
「はい、まだ20分おきくらいなんで…っつ…!!」
また陣痛がきたらしく、固まったまま痛みに耐えている千鶴の横で、総司も固まっていた。軽くパニックになっており何をしたらいいのかわからない。陣痛の波が終わった千鶴が、困ったように総司を見る。
「あの…まず総司さん着替えてください。それから必要な物はあそこのカバンに詰めてあるのでそれを持って、車の運転…」
「そうか、そうだよね。がんばって千鶴!」
マッハで着替えだした総司の服は、何故か冬の寒いこの時期なのに半袖だったが、千鶴はもう何も言わなかった。病院に持って行くようのカバンと間違えて、空のペットボトルがはいったエコバックを持ち上げたときは、さすがに間違いを訂正したが…
総司はまるで口癖のように『大丈夫?頑張って。』を心配そうに繰り返している。
駐車場から車を出そうとして、総司はもう一度後部座席の千鶴を振り向いた。
「どう?大丈夫?」
「はい…、今は陣痛の合間みたいで普通です…あのそれより前を見て…」
「どこ行くんだっけ?あ、病院か。えーと…」
右ウィンカーをつけようとしてワイパーを動かしている総司に、千鶴の不安は増す。
「千鶴、頑張って!」
総司さんが頑張ってください…
とは、恋人夫婦の千鶴は思っても口にしないのだった。
(某○魂によると沖田さんはSだけに打たれ弱いそうなんで、こういう時はパニくるような気がします。)
■斎藤さん
真夜中の病院の待合室。受付にだけ電気が灯っている。
その小さな灯りのなかで看護婦と話しているのは、斎藤だった。
「30分ほど前に家から電話した斎藤です。妻の陣痛は今は15分間隔とのことなので連れてきた。これが入院用の一式がはいったカバンで、中には着替えのパジャマに、妊産婦用の下着、赤ん坊の肌着に…」
カバンの中に整然と詰められている必要グッズを、看護婦は斎藤と一緒に覗き込んで確認をする。カバン中身のチェックが終わると、看護婦は横に置いてある本に気が付いた。これは?と聞く看護婦に、斎藤は答える。
「『初めての妊娠と出産 夫編』。俺のここ最近の愛読書だ」
キランと目を光らせて、生真面目に答える斎藤に、看護婦の表情が柔らかくなる。
「完璧ですね。こんなに協力的な旦那様だったら奥様も安心ですね」
看護婦はそう言ってカバンと受け取り受付の中に置く。
「じゃあ診察するので奥様をこちらの診察室へ…」
斎藤の後ろを覗き込んだ看護婦が、後ろに誰もいないのに気が付いた。
「…奥様はどちらに?車の中ですか?」
その言葉に斎藤ははっとする。
「……家に忘れてきた…」
斎藤のジーンズの後ろポケットに入っていた携帯が、さっきから振動していたのに今気づいたのだった。
(ほとんど完璧なのに、へんなところで抜けてそう。)
■平助君
「はい!藤堂さん!イキんで!」
看護婦の掛け声とともに、千鶴と、千鶴の手を握っている平助が一緒に『ん〜〜!!』とイキむ。
「はい、終わり!力抜いて休んでください」
看護婦の声とともに、千鶴と平助がはぁっと大きなため息をついて力を抜いた。もう話す余裕もないくらい消耗している千鶴に、平助は飲み物を飲ませてあげたり額の汗を拭いてあげたりする。
「ほら!また来ましたよ!イキんで!」
『ん〜〜!!!』
バッターン!!!
疲労と酸欠で倒れた平助に、慣れているのか分娩室の誰も注意を払わない。
「ほら、もう少し!!頑張って!!」
「旦那さん邪魔だから部屋の隅にどかして!」
まさに出産!という非常時で看護婦も産科医も、床にのびている平助を足で部屋の隅にやる(手は消毒しているので)。
平助君…『ヒッヒッフー』の呼吸法は、全部息を吐くんだよ…吸うと酸欠になるって立会い講習で言ってたのに…
寝てて聞いてなかったんだね…
陣痛の中、千鶴はぼんやりとそう思ったのだった。
(よくあることですよね^_^;)
■左之さん
「千鶴…!大丈夫か…!」
左之は千鶴の手を握って心配そうに顔を覗き込んだ。千鶴は額に汗を浮かべながらにっこりとほほ笑む。
「大丈夫です。がんばってきますね…」
陣痛室から分娩室へと移動するベッドの脇について歩きながら、左之は心配でつらくてたまらなかった。愛しい女がこんなに苦しんでいるのに何もできない自分がつらい。
「千鶴…!」
左之の言葉にかぶせるように冷静な看護婦の声が聞こえてきた。
「はい、分娩室につきましたよ。旦那さんは立会いじゃないんですよね?ほら、もう手を離して…。大丈夫ですよ。奥さんしっかりしてるし、呼吸法も上手ですし」
なかなか離れようとしない左之を、べりっと無理矢理引き離して、看護婦は移動式のベッドを分娩室へと運んでいく。
「あのっ俺心配なんで今からつきそい…」
「ダメです。講習を受けてない方は入れません。それに手術着やマスクの準備もしてないですし。ほらもう奥様の方が覚悟をきめてらっしゃいますよ。しっかり外で待っていてあげてくださいね」
まだ20代前半と思しき看護婦に諭すように言われて、それでも左之は思わず縋り付きそうになった。
「でもっ…」
「はい、閉めますよ〜」
バタン
無常にも目の前で閉められた扉の前で、左之は立ち尽くす。
移動を手伝ってナース室へもどる看護婦たちは、茫然と立ち尽くしている左之を見て、歩きながらこそこそ会話をかわす。
「イイ男ね〜」
「でもウェットすぎて、ああいうのは立会いされると役に立たなくて困るのよね」
「そうそう、泣いちゃったり、こんなに痛がるのは可哀そうだってくってかかられたりね」
「妊娠させるのは得意だけど、出産立会いは苦手って感じ?」
その言葉に看護婦全員が吹き出したのだった。
(男っぽいだけあって、女性や子供の痛みには弱い気がします。)
■皆様のお好みの陣痛隊士(←?)は誰ですか?RRAは……どれも困りますね…敢えて選ぶなら、土方さんかなぁ…
☆皆様のお好みの陣痛隊士☆
土方さん……2人
沖田さん……6人
斎藤さん……0人
平助君 ……1人
左之さん……1人
選べない……5人
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