【秘密】


最後まで千鶴ちゃんにいじられ翻弄される沖田さんww しっとりどこいった状態ですが、やはりラストはハピエンで。






しとしとと雨が草や木を濡らす音で総司は目が覚めた。
肩に薄い夏用の布団をかけられる気配に気づいて寝返りをうつ。
「……おこしちゃいましたか?」
明け方が近いのかぼんやりと明るい。
「いや、雨の音で目が覚めたんだよ」
総司はそういうと、腕を伸ばして千鶴を抱き寄せた。

ここ、東北の雪村の里は夏でも雨が降ると肌寒い。彼女は寒がりだしちょうどいい。
千鶴はされるがまま総司の胸の中に潜り込み再び目を閉じる。
総司はふと聞いた。
「ねえ、そういえばさ……」
「……はい?」
眠そうなのに律儀に返事をしてくれる千鶴のおでこに、総司はちゅっと口づけをする。
「最初の夜もこんな風だったよね、覚えてる?夏で……暗くて、雨が降ってて……」
薄暗い中でも千鶴がパチパチと瞬きをしたのが見えた。
「……どうしたんですか?突然」
「あの時、君はどうして僕のところに来たの?別に恋仲でもなかったしお先真っ暗な病人なのに」
「どうしてって……」
総司の胸から顔を起こした千鶴と目線を合わせる。
「あの時もあの後も聞いたのに、答えてくれなかったよね。そろそろ教えてよ。どうして君はあの夜僕のところに来たのか」
「……もう昔の話じゃないですか。いまさら……」
「ほら、また答えてくれない」
総司はふくれた。
「どうしてそんなことを聞きたいんですか?今はもう奥さんなんですから別に理由なんてどうでもよくないですか?」
「よくなくないよ。……まあ、千鶴が僕のことを好きで好きでどうしようもなくて来たんだろーなーってなんとなくはわかるけどね。君の口から聞きたいな」
「……」
無言になった千鶴の顔を見ると、薄暗闇でもわかるほど赤くなっている。総司は小さく笑うと千鶴をぎゅっと抱きしめた。
「ほら、ね?言ってごらん」
総司が促すと、千鶴はしぶしぶと言った感じで口を開いた。

「あの夜は……雨で」
「うん」
「間違えちゃったんです」
「え?」

思いもよらない言葉に、今度は総司が後ろに引いて千鶴の顔を覗き込む。

「夜中に起きて喉が渇いたので水を飲みに行って……ちょっと寝ぼけていたんで本当は右に曲がって私の部屋に行かなくちゃいけないところを、間違えて左に曲がって総司さんの部屋に……そしたら総司さんがガバッて襲ってくるからしょうがないかなあって」

真顔で淡々と話している千鶴に、総司は恐る恐る聞いた。

「……それ、冗談だよね?」
「ほんとです」
総司は首を横に振った。信じられない。信じたくない。
「いやいやいや……うそでしょ。そんな……うそって言ってよ」
「じゃあ、うそです。本当は総司さんが好きで好きでどうしようもなくて、あの夜行ったんです」
「う、うそ……それはほんと?」
「ほんとです」
千鶴はきっぱりとうなずく。が、総司はほとんどパニックだった。
「うそだ!それもうそだよね?」

混乱している総司に、千鶴は笑い出してしまった。いつもの余裕ぶりはどこにいったのか。
「もう、総司さんたら。どうしちゃったんですか?どっちでもいいじゃないですか今さら」
「でもほんとのところを知りたいんだよ」
「どっちでも好きな方を『ほんとのところ』にしてくださっていいですってば」
「千鶴!いつからそんないじわるになったのさ」
「総司さんのご指導のたまものです。さ、もう寝ましょう。まだ朝には早いですよ」
いつも千鶴をいじめる総司が、こんなことで困っているのを見て千鶴はくすくすと笑った。

あの夜行動を起こしたのは千鶴の方で、その理由なんてたぶん誰にでもわかる。
新選組のみんなにだって、かなり前から千鶴の気持ちはばれていたと思う。
もしかしたら二人の秘め事についても、なんとなく気づいていたのかもしれない。
千鶴は隠すのが下手だし、総司のことが好きで心配過ぎてとても隠せるような余裕はなかった。
なのに、いつも人の考えていることや気配に敏い総司が、このことだけはわからないなんて。
そして、あの夜千鶴が自分から総司の元に行ったその理由が、彼にとってはこんなに大事だなんて。

千鶴は総司の肩に頭をのせて、足を絡めていつもの眠り込む体勢になる。
相変わらず外では雨が降り続けているようで、とても静かだ。
鳥も虫も雨のせいで今朝は遅くまで寝ていることだろう。

「でもさあ……ほんとはどっちなのかだけ教えてよ」
まだぶちぶち言っている総司の首筋に顔をうずめて、千鶴はこっそりとほほ笑みながら答えた。


「秘密です」






【終】


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