天女の羽衣妄想です。
幕末屯所(?)設定。
千鶴ちゃんが天女で水浴び中。みんなは千鶴ちゃんとは初めて会います。
目撃した皆様は一目ぼれというシチュで行きたいと思います。
■土方さん
「なんだあんた!どうしたんだそんな格好で!」
「暑くて水浴びしていたら衣を失くしてしまって……探しているんです」
薄物一枚姿の女性は、困った顔でそう言いながら目を潤ませた。
ヤボ用があり一人で出かけていた土方は、視線をそらせながら暗くなりだした夕空を見上げる。
水に濡れたカラダに一枚来ただけのその女性の姿は、女に慣れた土方にとっても目に毒だ。水に湿った布がからにまとわりついて、そのせいで女性……というか少女から女性に変わるみずみずしくも魅力的な身体のラインがあらわになっているのだ。おまけに急いで羽織ったのか合わせの部分や裾がはだけていて目のやりどころに困る。
「まあ、このあたりはほとんど人も通らねえから、風にでも飛ばされたんだろう。……どうする?その格好じゃ帰れねえよな。とりあえず俺のところにでも来るか?男所帯だがなんとかなるだろう」
千鶴は、ありがたい申し出に目を潤ませながらお辞儀をした。
「あ、ありがとうございます!本当に助かります。あれが無いと帰れないので……」
「『あれ?』」
「い、いえ、あの……その、こちらの話です。お世話になるからにはできる限りお手伝いさせていただきますのでよろしくお願いします」
千鶴はそう言うと、親切なその男を見上げた。
自信に満ちた立ち姿に、整った顔立ち。鮮やかな決断力と実行力。
……素敵な人だな……
人間は恐ろしいと聞いていたが、この人は優しいし頼もしいし……かっこいいし……。
土方にすっかり魅了されている千鶴だった。
(意外に面倒見がよく、女から惚れられてしまう土方さん)
<おまけ>
「副長。連れてこられた女子の部屋の準備が済み、さきほど案内しておきました」
斎藤は副長室の前でそう報告した。土方は、屯所に帰るなり急ぎで処理しなくてはならなかった書面から目を上げる。
「ああ、すまなかったな、斎藤。ありがとう」
「いえ、たいした手間ではありませんので。ほかにも何かありますでしょうか」
「いや、もう大丈夫だ。……ん?斎藤、お前どうした?」
「……どうした、とは?」
自分を見ている土方に、斎藤は不思議そうに首をかしげ、同じように自分を見下ろした。そして気づく。
「ああ、あの白い首巻きのことでしょうか。それでしたら今日昼に洗い、今は干してあるため、つけておりません」
「そうか」
もう下がっていいぞと言おうとした土方は、ふと、たもとにあるものに気がつき斎藤に再び声をかけた。
「そうだ、これをやろう。帰り道に拾ったんだが、綺麗だし軽いし暖かい。いい布だと思うぜ」
土方はそう言いながらたもとから白く長い布を取り出して斎藤に渡した。
「これは……これは絹……でしょうか?」
斎藤は手触りの良さに目を見開く。土方は頷いた。
「かもな。細くて長くて何に使うのかと思っていたが、お前の首に巻くのにちょうどいいんじゃねえか」
「頂いてしまってもよろしいのでしょうか?」
「ああ、俺がもっててもしょうがねえ。首に巻いて使ってくれ」
「ありがとうございます」
平服する斎藤に、土方は「もう下がっていいぞ」と告げた。
(斎藤さんが天に帰ってしまう〜!ww)
■沖田さん
「君、何泣いてるの?」
「なくしたものが見つからなくて……」
もうそろそろ日も暮れようかという夕暮れ。のんびり散歩から帰ってきていた沖田は、草むらの中でしくしく泣いている女の子……女性を見つけて声をかけた。
水浴びをしていたのか濡れた髪に、涙で潤んだ瞳。見上げられた沖田は、ズキューンと胸を打ち抜かれた。
「……一緒に探してあげようか?どんなものをなくしたのかな」
「衣なんです。白くて細くて長くて柔らかい……」
それからしばらく二人で探したが、衣は見つからなかった。とっぷり日も暮れて冷えてきた千鶴は、くしゃん!とくしゃみをする。
「風邪ひいちゃうな。……ここから少しいったとこに一晩宿を貸してくれるところがあるから、とりあえずそこに行こうか」
「そんなところがあるんですか?でも私、お金が……それに女ひとりで宿を貸していただけるんでしょうか?」
「ああ、お金は僕が貸してあげるよ。連れ込み宿だから僕と一緒に行けば大丈夫だと思うよ」
「……」
「あ、何か誤解してる。僕は屯所に帰るからそこに泊まるのは君だけ。大丈夫だよ。今後については明日考えようか。なくした衣は大事なものだったの?みつからなかったらどうする?」
千鶴を促して連れ込み宿に向かって歩きながら、総司はそう聞いた。千鶴はとりあえず総司のことを信用することにしたようで、総司のとなりについて歩く。
「なんとかして探さないといけないです。お金は……働いてお返しします。……あれがないと帰れないんです」
困り果てた千鶴は、そう呟いた時、隣りを歩いていた総司の目がキラリと光ったことには気づいていなかった。
その夜、千鶴を宿において屯所に帰った総司。
「燃ーえろよ燃えろーよ〜」
「ん?総司、何この暑いのに火ぃたいてんだ?」
背後から左之に声をかけたれて、総司は振り向いた。
「あれ、左之さん。いや、拾ったものをね、ちょっと」
左之は首をかしげる。
「拾ったもの?を燃やしてるのか?いいのか?」
「いいんですよ。そのほうが」
ニンマリ笑った総司の顔を見て、左之は肩をすくめると「メシ、早く行かねえと食いっぱぐれるぞ〜」と言いながら去っていったのだった。
(証拠隠滅は素早く確実に。とっておいて夫婦になってからタンスの奥にしまわれているのを見つかるなんて間抜けなことは、沖田さんにはないんじゃないかなー)
■斎藤さん
「……邪魔をしてすまないが、これが落ちていたぞ」
斎藤は極力顔を背けながら、手に持っていた衣を泉の中にいる女性に差し出した。
「え……あ、ありがとうございます!だ、大事なもので……落ちていたんですか?ありがとうございます」
泉で水浴びをしていたらしき若い女性は、そう言うと斎藤の手に飛びつくように水から上がった。
いや、見たわけではないので水から上がったかどうかはわからないが、水音や草のカサカサ言う音、手に触れる女性の指の感触から考えて、きっと水からあがったのだろうと斎藤は推測した。
見てはいけないと思うものの、首が勝手に女性の方をむこうとする。
斎藤はギュッと目をつぶった。
「こ、衣はここに置いておくので、とりあえず、そのような……そのような格好でここにでてくるのは……」
斎藤がしどろもどろにそう言うと、女性は「きゃあ!」と驚いた声をあげた。と同時に、水に飛び込んだらしいばしゃん!という音がする。斎藤はそろーっと薄目をあけて女性の方を見た。
女性は泉の中には入り、衣で身体を隠している。
「……」
衣が水に濡れたせいで隠している意味が全くなくなっているとは言わないでおこう……
斎藤はどんどん熱くなる耳と頬を隠すようにして「では、最近はこのあたりも物騒だから早く帰るように」といいおいて、逃げるようにその場を立ち去った。
その夜、斎藤が部屋で昼に見た光景を思い出していると、平助が部屋までやってきた。
「一くん?屯所の門に……」そう言いかけて、頬を染めて空を見つめている斎藤に、不審気に声をかける。
「……一くん?顔が赤いぜ?風邪?」
斎藤は、平助に目の前で手をパラパラと振られて、ハッと我に返った。
「い、いや!な、なんでも……なんでもないのだ。ちょっと思い出してただけで……」
「思い出す?何を?」
「お!おっっ思い出してなど……!思い出してなどいない!!断じて、断じて俺は思い出してなど……!!」
どっちなんだよ……と思ったものの、平助はそこには触れずに、当初この部屋に来た目的を思い出した。
「あ、そうだ。一くんにお客さん。なんでも昼頃に一くんにお世話になったお礼を言いたいとかで……かわいい女の子だぜえ!」
「……!」
当然お礼を言いに来たのは、今度はきちんと着物を来た先ほどの女性――千鶴という名前らしい――だった。
屯所の玄関からこちらを鈴なりで覗いている隊士たちの目を気にしながら、斎藤は「あの……またこうやって会いにお伺いしてもいいでしょうか?」と恥ずかしそうに言う千鶴に「かまわないが」と答えたのだった。
(あれ、なんか鶴の恩返し……)
■平助君
「わああ!」
「きゃああ!」
突然飛び出してきた女の子とぶつかった平助は、その女の子の格好を見てさらに驚いた。
ほとんど半裸なのだ。
「なっ…!ど、どう…!なんで!ええ?!」
「え、あの…!いやああ!」
平助に見えないように後ろを向いてしゃがみこんでしまった女の子の後ろで、平助はアタフタと手足を動かした。
「な、何?なんか…とうかしたのか?誰かに襲われたとか……誰か呼んでくるか?」
アタフタとしたまま駆け出そうとした平助の羽織を、その女の子はぎゅっと掴んだ。
「ま、待ってください。あの、大丈夫です。襲われたわけじゃなくて……その、暑くて水浴びをして、上がろうと思ったら衣がなくて……」
「こ、衣が?」
平助はようやく事情が分かり、とりあえず羽織っていた羽織を彼女の背中にかけてあげた。
「そういえば、おれあっちから歩いてきたんだけど木になんか引っかかってるの見かけた!あれ、もしかしたらお前の衣かもしんねえな」
平助はそう言うと道をもどり、木の高い枝に引っかかっていた衣を苦労してとった。
「ありがとうございます!あ……ありがとうございます本当に……本当にありがとうございました。助かりました。私、これがないと帰れなくて……」
ペコペコとお辞儀をしてお礼を言う千鶴に、平助は頭をかいた。
「いいーってそんな礼いわなくても。確かにあのカッコじゃ、帰れねえよな」
苦笑いしている平助に「そう言う意味じゃなくて……」と千鶴は言いかけたが、口をつぐんだ。
自分が天女で、天に帰るためには羽衣がいる、などと今更説明しても意味がないだろう。人の良さそうな平助の笑顔に、千鶴も笑顔になった。
「あそこの泉、水も綺麗だし人もいねーし、結構いいよな。おれもよくあそこで泳いだり魚つったりするぜ」
「そうなんですか?」
「ああ、屯所の仲間にも内緒でよく昼寝したりもする」
へへっと笑う平助を見て、千鶴はまたこの泉に遊びに来ようと思ったのだった。
その夜、屯所。
「お前ばっかだなあああ!」
呆れたように新八にそう言われ、左之からは「もったいねーーーー!」と言われ、平助は口を尖らせた。
「なんでだよ、困ってたんだから当然だろ?」
新八は杯をぐいっとあげると、身を乗り出した。
「だからお前は甘ちゃんなんだって!男と女なんて戦いよ!戦い!弱みにつけこむ!優しいふりをしてもらうもんはもらう!当然だろ」
左之も手酌で酒を次ぎながら頷いた。
「まーそこまで悪どいことはおれもしないけどよ、そんなにオイシイ場面なら次につなげる約束ぐらいしとけは良かったんじゃねえか」
サラウンドでもったいないもったいないと言われ続けて、平助もだんだんと悔やみ始めた。
「そうだよなー、ほんと可愛かったんだよ。住んでるとことか……せめて名前だけでも聞いときゃよかったなあ……俺って馬鹿……」
がっくり落ち込む平助を、まあまあと慰めながら三人はその夜は酔いつぶれたのだった。
(素直に衣は返してあげるものの返したあとでそんな自分に後悔する、的な)
■左之さん
「探し物はこれか?」
左之がそう言って拾った衣を差し出すと、その女性は驚いたように振り向いた。そして左之の手に持っている衣を見て嬉しそうな顔になる。
「これ……これです。私、失くしてしまって……」
「探してたんだろ?あっちで風に飛ばされてるのをたまたま拾ってな」
左之から渡された衣を大事そうにかけて、女性は潤んだ瞳で左之を見上げた。
「あり、ありがとうございます!ほんとにありがとうございました。これ、とても大事なもので、どうしようかと……」
「これからは気をつけたほうがいいな」
左之はそう言って、ふとその女性の姿を見た。そして眉をしかめる。それに気づいた女性が、「あの……何か…?」と首をかしげた。
「いや、おまえさん、そこの泉で水浴びしてたのか?」
頷く女性に、左之は続けた。
「そうか……」
そしてしばらく考えるように黙り込む。一体何だろうかと千鶴が思っていると、左之は再び口を開いた。
「まあ、暑いからな、気持ちはわからなくねえが、これから水浴びするときはいつもこれくらいの時間にするといい」
「……?」
首をかしげている女性に、左之は言った。
「いや、ここの泉の一本向こうの道は結構人が通るんだよ。この時間なら俺はちょうど休みの時間だから、変な奴らが近づかないように見張っててやるよ。あすも来るか?」
ここのところ連日この泉に遊びに来ていた千鶴は、思わず頷いてしまった。それを見て左之が笑う。
「よし、じゃあこの時間に来いよ」
「は、はい」
きらめくような色気のある微笑みに、千鶴はぼーっとなったままこくこくと頷いたのだった。
(優しくかっこいい左之さんは衣なんぞ取り上げずとも男ヂカラでオトしそうです)
天女の羽衣の話をしていて、RRAは「ぜったい隠す!返さない派」なんですが、話していた方は「返してお礼を期待する派」で、なるほど〜、と(笑)。
隊士の皆さんだったらどーするかなーと考えたカオスの妄想です。
RRAは、隊士目線なら沖田さん派。天女目線なら平助君がいいなあ…。二人でのんびり泉デート♥
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