■土方さん
「じゃ、行ってくる」
仕立てのいいスーツに皮のカバンを持ち、土方は玄関で靴をはいた。
千鶴が台所がから出てきて、行ってらっしゃいとほほ笑む。隣で靴を履きだした千鶴を見て、土方が言う。
「なんだ?お前も外に出るのか?」
「今日ゴミの日なんで……」
見れば千鶴は両手にゴミ袋を抱えている。土方は何も言わずに手を出した。
「?」
「ほら、寄こせ。それぐらい持ってってやる」
「え、いいですよ。スーツなのに…」
「ついでだ。ついで。別にたいしたことないだろう、これくらい。ほらさっさと寄こせ」
土方はそう言うと、強引に千鶴からゴミ袋をひったくり、じゃ、行ってくる、と再び言って出て行った。
「あ、ありがとうございます……」
いつも忙しそうなのに、ちゃんと気遣ってくれる土方に、千鶴の胸はあたたくなったのだった。
(特に恩に着せるでもなく普通にやってくれそう)
■沖田さん
「あれ、千鶴どこ行くの」
「あ、総司さんは出社までまだ時間がありますよね?ゆっくりしててください。ちょっとゴミ出してきます」
見れば千鶴の手には大きなゴミ袋が二つ。
総司はにっこり微笑んで千鶴に近づいた。明るいグリーンのネクタイはまだ結ばれておらず真っ白いYシャツの首からかけられたままだ。
「……ありがとう。僕のかわいい奥さん」
総司はそう言うと、ミュールをつっかけた千鶴の肩を軽く抱き、瞼の上にそっとキスをする。
「ちゃんとキスをしたいから早く帰ってきてね」
「ちょっ…!総司さん!朝から……もう!」
笑いながらリビングに戻って行く総司の背中を、千鶴は真っ赤になりながら見送り玄関を出た。
どうしよう……急いで帰ると、『そんなにキスして欲しかったの?』ってからかわれそうだし、遅くなると『ふぅん、そんなに僕とのキスが嫌だったんだ』って拗ねちゃいそう…。
千鶴は歩く速度に迷いならがらゴミを出しに行ったのだった。
(ゴミだしはしないけど甘い言葉をさんざん言ってくれて、こちらが思わずはりきってやってしまいそう)
■斎藤さん
「おはようございます……。って一さん、何をやってるんですか?」
寝ぼけ眼で起きてきた千鶴は、リビングの入口で立って受話器を持っている一に目をぱちくりさせた。
「市役所に電話だ。プラスチックか可燃か、迷う物があってな。……あ、もしもし……朝早くに申し訳ない。実は料理用の紙パックの酒なのだが外は牛乳パックなのだが中は銀色の紙がはられており、注ぎ口はプラスチックでできている。これは再生ゴミかプラスチックか可燃なのかと……」
千鶴がちらりと台所のごみ箱スペースを見るとプラスチックごみ、可燃ごみ、ビン、缶……と完璧に、整然とわけられたゴミたちが並んでいるのが見えた。
電話を切った一が千鶴の横にきて、置いてあった空の料理酒の紙パックを手にとった。
「市役所の人、なんて言ってたんですか?」
「注ぎ口は切り取ってプラスチックへ、本体は再生不可なので可燃だそうだ。すまなかった。紙パックのを選んだのは俺だったな。次からはビンの料理酒を買ってこよう」
ジョキジョキと注ぎ口を切り取り始めた夫を、千鶴は少し頬を膨らませて見上げる。
「一さん、おはようござます」
「ん?ああ、おはよ……」
一の言葉は挨拶の途中で途絶えた。新婚の妻が、顔を自分に向けて目を瞑っているのだ。
こ、これは……!
求められていることは一つだろう。
一はうっすらと頬をそめながらぎこちなく体を傾け千鶴のピンク色の唇に自分のを近づけていった。
2人の唇が柔らかくあわさる。
作り付けのごみ箱の上、作業台になっているスペースにそっと置かれている千鶴の手の横には、一が切り取ったベルマークが3枚置かれていた。
(主婦以上にきっちりやりそう)
■平助君
「平助君!平助君、もうそろそろ出かけるでしょ?今日ゴミ袋が二つもあるから一つ持って……」
玄関で千鶴が平助に声をかけると、リビングの扉を勢いよく開けて平助が飛び出してきた。
「うおーっやばいやばいやばい〜!!遅刻しちまうっつーの!また土方さんに怒られる〜!!」
トーストを咥え、ネクタイはぶらさげまま、平助はすごい勢いで靴を履き始めた。
「へっ平助君!髪ぼさぼさだよ!」
千鶴が焦って夫の髪をなでつける。
「おお〜!サンキュ!ああ!定期忘れた!千鶴悪い!とってきて!」
千鶴はあわててリビングへ走り、定期とその横にあった携帯(これも忘れていた)を持って玄関へもどり平助へ渡す。
「あとは?忘れ物ない?」
「うん!多分。あ、今日飲み会で遅くなるから先寝てて」
玄関のドアを開けて飛び出そうとする平助に、千鶴は叫んだ。
「へっ平助君!カバン!カバン忘れてる!!」
「うお〜!!!やばかった〜!!千鶴あんがと!」
ちゅっ!と大きなリップ音をさせて、平助は千鶴の頬にキスをした。千鶴が頬を赤くするまもなく平助は風のように玄関から走り去って行った。
「ふう〜」
嵐のような騒ぎの後、千鶴がふと玄関の上り口を見ると、ゴミ袋が二つ……。
「あ〜あ……」
可哀そうだけどゲーム禁止令をだそうかなぁ、と考えながら、千鶴はゴミ袋を持ち上げゴミ捨て場へと向かった。
(朝はとてもゴミ出しまで手がまわらなそう)
■左之さん
「お?なんだ。今日はゴミの日か」
玄関で左之は、一緒にゴミを持って出てきた千鶴を見てそう言った。
「ほら、かせよ。持ってってやるよ」
そう言って大きな手を差し出す。千鶴はすこしびっくりして言った。
「そ、そんないいですよ。左之さんスーツ着てるし、あそこのゴミだし場、近所の奥様方がおしゃべりしてて、左之さん行きにくいと……」
すらりと均整のとれた大柄な左之は、スーツがとてもよく似合っていた。整った顔立ちと相まって、ゴミ出しがこれほど似合わない男性もいないだろう。
「なんだぁ?そんなこと気にしてんのか。かわいいなぁ。千鶴は。じゃあ一緒に行こうぜ」
「え?」
左之はそう言うとゴミ袋を一つ持って、もう一つを千鶴に差し出す。そして空いてる方の千鶴の手を自分の腕にかけて、行くぞ、と玄関のドアを開けた。
腕を組んで、ゴミ袋を一つずつ持って……。
まるで絵にかいたような新婚カップルの図に、千鶴は恥ずかしくて顔を赤くして小さくなりながら歩いた。道のあちこちで立ち止まっている奥様方の視線が痛い。
それでなくても一般人とは違う垢抜けた左之に、以前から近所の女性たちの注目が集まっているのを千鶴は知っていた。きっと今回のゴミだしで、さらに噂に拍車がかかるに違いない。
2人でゴミを置いて、千鶴は立ち止まった。ここから千鶴は自分の家に戻り、左之はそのまま駅へと向かう。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
にっこりと見上げた千鶴を左之がまぶしそうに見る。そして彼女の肩を両手でつかんで、左之は唇をよせてキスをした。
きゃあ〜!!という声が聞こえたのはきのせいじゃないはず……。
千鶴は固まったまま、頭の隅でぼんやりとそんなことを考えていたのだった。
(ちゃんと手伝ってくれつつ隙をついて甘い展開に持っていきそう)
■皆様のお好みのゴミだし隊士は誰ですか?RRAは……左之さんかなぁ。
☆皆様のお好みのゴミだし隊士☆
土方さん……11人
沖田さん……7人
斎藤さん……1人
平助君 ……0人
左之さん……6人
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