★★★メリークリスマス★★★
拍手いっぱいありがとうございます!!
準備不足で今年はクリスマス更新はできないかなあとあきらめていたんですが、これは更新しなければと急いで書いてみました!
こんなルートがあったらいいのにって日ごろ妄想していたおふざけルートです。(公式本編GOODENDの最後のところです)
あんまりクリスマスっぽくなくてスイマセン……
ホントにふざけてるので、苦手な人はご注意ください。
★★★メリークリスマス
★★★
私たちの前に広がっているのは、夢で見たものと変わらない景色。
ついに私は、生まれ故郷にたどり着いた。
そして……。
「おかえり、千鶴」
父様の声。雪村の家があった場所で、父様と薫が私たちを待っていた。
薫がうっすらと笑いながら言った。
「……ねえ、千鶴。ちゃんと答えを出してくれた?」
私は小さくうなずいた。考えた。いっぱい。沖田さんとも一緒に。どうすれば……どうなればいいのか、どうしたいのか、一生懸命。
「話は薫君から聞いているんだろう?さあ、一緒に王国を作り上げよう」
「父様……」
ここからだ。ここからが私たちのほんとのストーリー。クリスマスの前夜にしか現れないという幻の分岐ルート。
私はちらっと斜め後ろに立っている沖田さんを見た。心なしか緊張しているような横顔。目が合うと、沖田さんはうなずいた。やっぱり沖田さんもここだって思ってたんだ。私は深く息を吸った。
沖田さんが一歩踏み出した。見ていた薫が警戒したように一歩下がる。父様も表情が真剣になった。
沖田さんはすっと息を吸うと、勢いよく言った。
「娘さんを僕に下さい!」
ぽかん……という擬音が雪村の里に漂った。この空気にのまれちゃいけない。私たちの空気で逆に呑み込まなきゃ。
「わ、私は、沖田さんが好……」
「何バカなこと言ってるんだよ!」私の声をさえぎるようにして薫の怒鳴り声が響いた。人気のない里にビリビリと響くような声。
「今がどんな状況かわかってるのか!千鶴を僕にくれとか好きだとかそういう話じゃ――」
「娘はやらーーん!!!」
今度は薫をさえぎって、父様の怒鳴り声が空気を震わせた。
「父様……」と私。「綱道のおじさん、何を言って……」薫が唖然としている。
さすがの沖田さんもひるんだみたい。「お父さん……」
「お前などにお父さんなんぞと呼ばれる言われはない!とっとと帰れ!」
バッと追い払うように手を振る父様に、薫が慌てて言う。「お、おじさん、何言ってるんですか。帰らせてどうするんですか!」
沖田さんは何かを振り払うように軽く頭を振ると、もう一歩踏み出した。まっすぐに前を……父様を見て、決心した強い光が綺麗な緑の瞳に宿っている。
「そうです、あいつの言う通り僕は帰りません。娘さんとの結婚の許可をいただくまではここにいます」
「勝手に僕の言葉につなげてくるんじゃない!俺が言ったのはそういう意味じゃないんだよ!ああ、もういいや、結局ラスボス対決なんだよこれから!沖田!剣を抜け!」
「それだ。それなんだよ、私が君に娘を任せられない理由は」
父様が言うと、薫は今度は父様へ振り向いた。
「だから僕にかぶせてくるなって!なんなんですか、おじさんまで!」
だけど父様は薫を無視してまっすぐ沖田さんを見ている。「君は……京で最強とまで言われた剣士だ。剣は人を斬りその人にまつわる様々な人の心も斬る。見についた剣技を、娘と一緒になったからといって簡単にすてられるものではないだろう。君の業に娘が巻き込まれるのを黙って見ているわけには行かんのだ」
「待てって!」
薫が頭を抱えた。「なんかちょっといい人風なこと言ってるけど、おじさん、自分も変若水バンバンそのへんの浪人に飲ませて人体実験してたよね?これからも続けるつもりだよね?」
薫には答えずに沖田さんはまっすぐに父様に言った。
「僕は……僕は確かにたくさん人を殺してきました。何も問題がないふりなんてしません。でもこれからは……」
沖田さんはそう言うと、私の方に手を差し伸べた。不安そうに見上げると、緑の目が優しく頷いてくれる。
「これからは、彼女と一緒に、普通に助け合って生きていきたいんです。人を斬る仕事にはもう二度とたずさわるつもりはありません。人を殺すのではなく……産み出す方へ変わりたいと思っています」
う、産み出すって、え?これって……!?
びっくりして沖田さんを見上げると、沖田さんはいたずらっぽく片目を閉じて微笑んだ。「でしょ?」
私は顔が赤くなるのを感じて両手で頬を覆った。「それは……そうなったらいいなとは思いますけど……」
視界の端で薫が気が狂ったように、私たちから飛び散っているハートを斬りまくってるのが見えた。でもその時の私には沖田さんしか見えなくて……
ああ、本当に。
沖田さんとこうやって二人で、二人の赤ちゃんと一緒に毎日を過ごせたらどんなに幸せだろう。
「いいか!」肩で息をしてる薫が目の前に現れた。「俺を無視するな!沖田!お前は今から俺と――…」
「父様、お願い!私たちを認めてほしいの!赤ちゃんに……生まれてくる赤ちゃんに、おじいちゃんだよって父様を紹介したい!」
「無視するなあああ!」
薫の声が聞こえたけど、今は大事な時なので私はスルーした。父様の心が、さっきの私のセリフでかすかに動いたのがわかったから。私は沖田さんと顔を見合わせてうなずいた。やっぱりこれが効くんだ。昨夜の口づけの後の打合せ通りの展開だ。
「孫……千鶴の、子ども、か……」
つぶやく父様を横目で見ながら、沖田さんが肘で私をつついた。「ここが押しどころだよ」
私はうなずいた。「父様、私のこと育ててくれたんでしょう?だから私が子どもを育てる時にも一緒にいてほしいの」
父様の心が大きく動いたのがわかった。でも父様はうなずいてくれなかった。
「お前たちの言いたい事はわかった。だが、時代はまだ幕末動乱。娘をまかせてその上孫まで任せる男は強くなくてはならん。薫と戦って勝ったなら、結婚を認めよう!」
ビシッと父様の人差し指が薫を指した。
「えっ!何を突然俺にふってるんだよ!……ってまあいいやもうなんでも!沖田!」
薫はそう言うと剣を抜く。そしてその剣先で沖田さんをピタリと指した。
「おまえらだけ幸せに暮らすなんて、兄さんはどうしても許せないないんだよ。前から許せなかったけど今もっともっともっと許せない!!」
沖田さんも楽しそうな顔で腰から剣をすらりと抜いた。
「男の嫉妬は醜いよ!」
「嫉妬じゃないよ!お前は前から気に食わなかったんだ。ここで切り刻んでやる!」
ギン!と金属と金属が激しくぶつかる音が里に響いた。
「本当に嫉妬している男のようだなあ、薫は」
ギン!ギン!と火花が散りそうな刀のぶつかり合う音の合間に、父様がどこかのんきにそういった。その表情は妙に穏やかで、私は思わず父様の近くまで歩み寄る。
「父様……」
父様がにっこりとほほ笑んでこっちを見た。しょうがないなあっていう困ったような笑顔。
「……お前はかわいい子どもだったよ。またあんなかわいい子に会えるなら、それは楽しみだ」
私は全身に力がほっと抜けた。父様……!
「ありがとう……ありがとう、ございます」
涙ぐんでしまった私から父様は照れくさそうに視線をそらした。そらした先では薫と沖田さんが斬り合っている。
「なかなか……いい男じゃないか、沖田君も」
からかうような父様の言葉に、私も笑顔になった。「いい男…です、ね」
父様ははっはっはっと大きな声で笑う。
「千鶴はメンクイだったんだな」
「か、顔だけじゃないんですよ、沖田さんは!あの、ああ見えてすごく……すごく真面目な処もありますし、その、意地悪なところもあるけど優しいんです。頼りになるし、いろいろ考えてくださってるし……」
言うごとに熱くなっていく私の頬に、父様はまたあっはっはと笑った。
「いやいや、それなら安心だ。お前のことも、孫のことも」
「と、父様ったら!まだ気が早……」
「まだ俺は負けてないぞ!」
薫の鋭い声が私たちの会話をさえぎった。「それに沖田の労咳は治ってない。そんな幸せな未来は実現しない!俺と羅刹の国を作った方がよっぽど幸せになれると思うけどね!綱道のおじさんもおじさんですよ、何こいつらのお花畑に呑まれてるんですか!」
「だって千鶴がかわいいから、それはしょうがないだろう」
「親バカか!」
ギン!と苛立ちを込めた薫の刀が沖田さんを押し返した。
「父様、前から私に甘かったよね」私が江戸の頃を思い出して言う。そう、父様はいつも私をほめてくれて優しかったっけ。
「千鶴は本当にかわいい子だったからな。父様、父様って小さな手で一生懸命お茶を持ってきてくれるのがかわいくてなあ」
そのころのことを思い出しているような父様のほっこりした顔。
「娘を持った男親のバカ親か!」
ギン!ギン!と薫の刀が連続で沖田さんを押し返す。
「大丈夫だ」父様がこっそり私に言う。
「ああ見えて薫はシスコンだし、沖田君の羅刹もね、多分この地の清浄な水が変若水を清めてくれる。労咳も、きっとな」
薫の叫び声が聞こえた。
「ちょっとおじさん、何を!何を最後の秘密をさらっとばらしてるんですか!ってか俺は別にシスコンじゃないし!そもそもシスコンなんでこの時代に言葉がないし、何よりその前に沖田の労咳はこいつらの宿命みたいなものでそれがなくなるってありえなくて――」
つっこみが追い付かない……――!
薫の焦りが剣に伝わり、キンッと軽やかな音で沖田さんの剣が薫の刀を跳ね上げた。「あっ!」下から救い上げるように跳ね上げたせいで、薫の手から刀が抜け遠くに飛ばされる。バランスを崩した薫は土の上に膝をついた。
沖田さんの剣先が薫の顔の目の前でピタリと止まった。
肩で息をして顎の先から汗を滴らせている薫に、沖田さんが楽しそうに言った。沖田さんも息をはずませている。
「僕の勝ち」
薫が、ギリッと音がしそうなくらい歯ぎしりをして沖田さんを見上げた。
「殺せ」
「殺さないよ。千鶴ちゃんの唯一のお兄さんだし?僕の義兄さんにもなってくれるんでしょ?」
「うるさい!お前らなんかと家族になるくらいなら死んだ方がましだ!」
「薫!!そんなこと言わないで!」私は思わずかけよった。
そして薫の手をとって土を払った。私はしゃがみ込んで薫の目を覗き込む。ここが、昨日沖田さんと打ち合わせた第二のポイントだ。
「そんな悲しい事、言わないで。この里でのこと、思い出したけどまだ全部思い出せてないの。薫と一緒に思い出せたらって思ってる」
薫の、私によく似た大きな黒い目がかすかにゆれた。けど、すぐに顔をそむけてしまった。
「お前らとなかよしごっこをするくらいなら、南雲に帰るよ」
「うん、薫は薫の行きたいところに行っていいよ。でも、その前に……」
私はそう言うと、里の向こう側にある山肌を見上げた。
「その前に、一つ思い出した思い出があるの」
そう言ってじっと薫を見る。しばらくして薫は居心地悪そうに「なんだよ」と聞き返してくれた。
「あの森の向こう。岩場の向こうに泉があってお花畑があったよね?よく二人で行かなかった?」
薫が大きく目を見開いて私を見た。
「……思い出したのか?」
私はほほ笑みながらうなずいた。
「うん。まだそれだけだけど。薫がいっつもそこでお花を摘んでくれたのを思い出したの。そこに行きたいな、二人で」
「……」
「この里での暮らしが嫌なら、いつでも出て行っていいよ。南雲にいってもいいし京でも江戸でも。でも私はずっとここにいるから。薫の帰ってくるところはここだよ」
そういって、私は薫の手をぎゅっと握った。薫はぷいっと顔をそむけてしまったけれど、耳が赤いのは見える。あと一押し!
「薫、お花畑、一緒に行ってくれる?」
薫は私の手を振り払うと立ち上がった。
「まあ……お前は、俺が付いて行かないとすぐ道に迷うからな」
そう言い捨てると、薫は雪村の家に歩いて行ってしまった。後ろを見ると、父様と沖田さんがこちらをほほ笑みながら見ている。
「しばらくは拗ねてるかもしれんが、大丈夫だよ」
そういって父様は、ポン、と私の頭を軽くたたくと薫の後を追って雪村の家に入って行ってしまった。
沖田さんが一歩近づく。
「上手くいった…かな?」
「はい、多分……。ありがとうございました」
私は沖田さんを見上げた。ずっと悩んでたことを解決してくれた沖田さんがまぶしい。沖田さんの緑の瞳が柔らかく光った。
「僕は何もやっていないよ。君が全部やったんでしょ?綱道さんの心も薫の心もとろけさしてさ」
「でも、あらすじを考えてくれたのは沖田さんです。私ひとりじゃあんな筋書き考え付きませんでした」
「そういうのは得意なんだ」
沖田さんはにっこりとほほ笑むと、私の手を取った。「君を独り占めできるなら、多分義父や義弟ともうまくやっていけると思うよ」
「沖田さん……」
「僕のお嫁さんになってくれる?」
いつもの余裕のありそうな顔じゃなくて、少しだけ恥ずかしそうな表情。そんな顔がかわいくて、私は思わずふふっと声に出して笑ってしまった。沖田さんがむくれる。
「笑ってないで答えてよ」
「沖田さんが私の旦那様になってくれるなら」
「もちろん」
「体の調子とか、ちゃんと言ってくれますか?食事が口に合わないとか薫にいじめられたとかも全部」
「薫にいじめられたっていうよりいじめたっていう方が多い気がするけど、まあ、ちゃんと言うよ」
私は沖田さんの手をぎゅっと握り返した。
京から江戸に落ちて行ったころ、江戸での療養中。沖田さんのお嫁さんになれるなんて思ってもみなかった。
そのころは敵だった薫や父様とこんな風にもう一度一緒に生きていけるかもなんて、想像もできなかった。あのころは自分がどうなるのか、沖田さんが労咳に奪われてしまうんじゃないかと心配で心配でたまらなかったのに。
雪村の家の玄関から、父様の顔がのぞいた。
「千鶴、沖田君。薫が用意した簡単な食事がある。一緒にどうだい?」
私は沖田さんと顔を見合わせた。沖田さんの顔を見ればどう答えればいいかすぐにわかる。
「はい!」
父様に返事をすると、私は沖田さんと一緒に歩き出した。
きっとこの道はずっとずっと長く、どこまでも続いてる。一緒に歩いてくれる人も、最初の二人からきっと増えていく。
沖田さんとならきっとそんな風にいきていける。
このルートなら。
沖田さんのこの手を、ずっと離さないで歩いて行こう。
★★★ハッピークリスマス★★★