【階段】

一応「無自覚ラブ」の中の話設定ですが、あまり関係ないです。
沖千前提社会人の新選組パロです。近藤さんが社長で土方さんが副社長の会社にみんな働いています。
総司は小さいころから近藤さんと土方さんと仲良し(?)設定です。

 

 

 

 


「お早う」
「はよー」
「お早うございます」

挨拶を交わしながら、社員達がエントランスを潜り抜けていく。
セキュリティチェックを終えてエレベータに向かった総司は、先ほど挨拶を交わしたばかりの斎藤がこちらに来ずに、階段の方へ向かったのに気が付いた。
「斎藤君?エレベータ乗らないの?」
斎藤は頷いて答えた。
「俺はいつも階段だ」
総司の後ろから、ひょいと平助が顔をのぞかせて驚いたように言う。
「ええ〜?8階まで階段!?毎日?」
斎藤は無表情なまま平然と頷く。
「ああ。会社にいると運動不足になるからな。お前たちもどうだ」
総司は呆れたように肩をすくめる。
「遠慮しとくよ。僕は斎藤君みたいに、朝っぱらから自分をいじめる趣味はないんでね」

しかし平助は興味を持ったようだ。
「へー……俺やってみようかな」
「ええ?平助マジ?」
「だってさ、8階まで昇れねーかもしれないじゃん?以外に体力落ちてるかもしれねーし」
チン、という音と共にエレベーターが一階につき、総司達の周りにいた社員達がどやどやと乗り込んでいく。「お好きにどうぞ」と言いながら自分もエレベーターに乗り込もうとした総司は、後ろから平助と斎藤の会話が聞こえて足を止めた。

「総司は8階まで昇る自身がないのだな」
「そうかもなー。最近週末全然道場こないで千鶴んちばっかり入り浸ってるし。そのうち腹が出てくるんじゃねえ?」

「……」


音もなくしまったエレベータの扉の外側で、総司だけが乗らずに残された。
「あれ?乗らねえの?」
にやにやと平助が言う。
「別に強制はしていないぞ」
斎藤も言う。

総司はネクタイを緩めてYシャツの袖のボタンを外した。
「そこまで言うんならやってやろうじゃない」

 

「あ!千鶴!ちょうどいいところに!」
平助が、ちょうどエントランスに入ってきた千鶴を呼びとめた。
「これ持って先に8階にあがっといてくんねぇ?」と、千鶴に三人分のカバンを渡すと、平助も腕まくりをはじめた。
斎藤は、突然カバンを三つもわたされて驚いている千鶴を見て、次に総司を見て、囁いた。
「安心しろ。お前が負けても雪村には言わないでおいてやろう」

……ピキッ……

総司のこめかみの辺りの血管が小さく音を立てたことを、誰も知らない……

 


階段はぐるぐると踊り場をはさんで螺旋になっているため、一階ごとにインコースを昇る人を変えることにして、男たちのしょうもない戦いがスタートした。「遅刻しますよ」という秘書課の山崎の言葉もスルーして、一階の階段の前から、せーので一斉に階段を昇りだす。
「ぐおおおおおおおお!!!!」
「平助じゃま!次はインコース僕だよ!」
「無駄口を叩くと息があがるぞ」
当初は『8階まで昇れるか』という話だったのに、何故か全力疾走で駆け上がり、先に8階に着いたヤツが1番という競争に変わってしまっていた。
4階あたりまでは、平助も総司も一段ぬかしで勢いよく駆け上がることができたが、5階あたりから少し怪しくなる。斎藤はもちろん三人の中では一番階段昇りにたけているはずなのだが、総司と平助の勢いに呑まれてすっかりペースを乱していた。

6階
「次は俺が……インだ…」
「……」
「平助……、口もきけないなら…はあっ…棄権していいん…だよ…?」
「うっせ…っ!総司だって……息…っあがってんじゃ……ねーか……」

7階
「あっちょっ……!」
「ラストスパートとか……斎藤くん、負けず嫌い……はぁっ…!」
「ちょっ…!総司まで……くそっ……!」
「どいて!邪魔っ!」
「何を言う!最後はコースは……関係……ない…」
「ちょっと……!手をつかうなっつーの……!」

「「「俺(僕)が一番だ!!」」」


8階の廊下に、三人はほぼ同時に倒れこんだ。肩で息をしてしばらくは口もきけないようだ。
そんな三人の前にカツンと硬質な音をさせて、ピカピカに磨かれた高級そうな皮靴が現れる。
「……お前ら…何やってんだ!!!」
「ひ、土方副社長……!」
斎藤が即座に背筋を伸ばして立ち上がった。
「も、申し訳ありません。あの、これは……」
総司もゆっくりと立ち上がりながら言った。
「土方さん……競争してたんですよ。誰が8階まで一番に昇れるかって。僕が勝ちましたけどね」
「なっ……!何言ってんだよ!おれがタッチの差で一番だっただろ!」
食って掛かる平助に、斎藤が冷静に反論する。
「申し訳ないが一番は俺だった」
「僕だよ!」
「おーれ!」
「俺だ」
「僕!!」
「だーーーーーー!!!!うるせえ!ここは会社だぞ!階段を占拠して他の社員に迷惑かけたうえぎゃあぎゃあさわぐな!とっとと職場に行け!」

「申し訳ありませんでした」
「はーい」
素直に踵を返した斎藤と平助。総司はしかしからかうように土方を見た。
「土方さんはもう無理ですね」
「あ?何がだ」
眉間に皺を寄せて聞き返す土方に、総司は続ける。
「1階から8階までなんてダッシュできないでしょ?昔はともかく、今はデスクワークばっかりですもんねー」
そう言ってからかうように手をひらひらさせて、総司は去って行った。

 

その日の夜、残業を終えた山崎が会社を出ようとエントランスに差し掛かった時、階段のあたりで人影が動いているのに気が付いた。
「……?」
不審に思い近づいてみると……
「土方副社長?」
「わあ!やっ山崎か!なんだお前こんなところでこんな時間に」
「もう帰るところです。副長は何を……?」
山崎はそう言うと、土方がジャケットを抜いてネクタイを外していることに気が付いた。
「何か……力仕事でもあるようでしたらお手伝いしますが……?」
「いや!いや…別に仕事じゃねぇよ。大丈夫だ。もう帰れ」
「でも……」
「いーから帰れ!あ、それからこのことは誰にも言うなよ」

強引に外に押し出された山崎は、首をかしげながらも言われるがまま素直に帰ったのだった。