土方さんスイッチ



※教育テレビの「お父さんスイッチ」ネタです。青藍のオリキャラ、千代ちゃんがでてきます。いろいろカオスなので苦手な方はブラウザバック!拍手ありがとうございました!
お父さんスイッチとは:空き箱に、ボタンに見えるように丸やら何やらを5つ書きます。(紙をはりつけたりする場合もあります)。そこにひらがなを5ついれます。たいていは「あいうえお」とか「ぱぴぷぺぽ」とか五十音の一列をいれます。そして曲がるストローをその空き箱に着けて『お父さんスイッチ』が完成です。
これを子どもがお父さんに(おじいちゃんも可)むけて「あ」のボタンを押すと、お父さんは「あ」からはじまる動作を何かしなくてはいけません。この命令は絶対です。つまり「お父さんが子どもの指示通りに動くスイッチ」ですね。これをつくって親子でコミュニケーションしましょーっというものです。





きょうは、ちよの五さいのたんじょうびです。おうちでぱーてぃをすることになって、こうりゃくキャラのみなさんがあつまってくれました。


「空き箱に〜ボタンを五つ書きまして〜♪」
総司の鼻歌を聞きながら、平助と左之は、ダイニングの広いテーブルで総司と千代がなにやら工作をしているのを見ていた。一と千鶴はキッチンで夕飯を作っており、土方は仕事で遅れるとの連絡があった。
「なんだあ?それ」
左之の問に、平助が答える。
「『お父さんスイッチ』だろ?ほら、ちょうど今教育テレビでやってるじゃん。あれ」
つけっぱなしになっていたテレビからは、お父さんスイッチがちょうど流れている。
「あれを作ってのか?どれ……『ま み む め も』…千代が唯一書けるのはこの行だけだもんなー」
左之が笑い、さらに覗き込む。
「ん?『お父さんスイッチ』だろ?ここ、なんで…」
そこには総司の字でくっきりと『土方さんスイッチ』と書いてある。左之の質問には答えず、総司は千代に言った。
「千代、キッチンにお母さんと一君がいるから、曲がるストローもらっといで」
「それで完成?」
目をキラキラさせて聞いてくる千代に、総司はにっこり微笑んでうなずいた。キッチンへ駆けていく千代を見ながら、総司は左之に言う。
「千代が言ったんですよ。『土方さんにやってほしい』って。僕としては止める理由は無いですしね」
「まあ、千代は土方さんも大好きだからなあ。あんまり会えないし気持ちはわからんでもないな。だけど子どもがいない土方さんにやらせるのは酷だろ。そもそもあの人そんなスイッチ知らないんじゃねえか?」
左之が言うと平助は首を横に振った。
「土方さん、千代と一緒にいる時はいっつもあれ見てるから大丈夫じゃね?千代にデレデレだしご指名っつったら喜んでやると思うぜ」


遅れてやってきた土方も到着し、宴もたけなわ。
プレゼントもケーキも終わり皆でまったりとしているときに、千代が興奮した顔でおもむろに『土方さんスイッチ』を持ち出した。ワインを飲んでいた土方が、髪をかき上げながら千代が差し出したスイッチを手に取る。
「なんだあ?お前がつくったのか?うまくできでるじゃねえか!」
くしゃっと千代の髪を乱す。普段なら、これを作ったのが千代でなければ『くだらねえ。なんで俺がそんなことしなくちゃならねえんだ』と言ってスルーしそうな『スイッチ』。
皆は、土方がどうでるのか興味津々で見つめていた。
「どれ、千代が一生懸命つくったってんならやらないとな」
意外にもあっさり(酒がはいっていたせいもあるだろうが)、土方は立ち上がり、ダイニングの続きにあるリビングに立った。
皆はやんやと喝采を送る。土方はネクタイを緩めるとジャケットをソファの背にかけ、腕まくりをした。
左之が考えるように視線をめぐらせながら言う。
「最初はなんだ?『ま』か。『ま』からはじめる何か……『ま』『ま』……」
平助が嬉しそうに叫んだ。
「マンボウのふりをする!」
どんなふりだ!おまえマンボウって普段どうしてるのか知ってるのか!と笑いが弾ける。総司がお腹をかかえて笑いながら言った。
「じゃあ、じゃあさ…。マンボを踊るってのはどう?」
おお〜!いいじゃねえか!と皆は盛り上がり、照明はおとされ、ネットからあの有名な「ウー、マンボ!」の曲を見つけ出した。「俺は踊りなんざ知らねえぞ!」と言う土方を、総司はなだめながら内心ほくそ笑んでいた。
いつも偉そうにしており失敗などせず余裕しゃくしゃくの土方が、皆の前で無様にマンボを踊りイタイことになるという美味しいシチュエーションだ。これは今年一番の大笑いイベントになるに違いない。

しん…としたリビング。千代は千鶴の膝の上で土方をワクワクしながら見ている。手には『土方さんスイッチ』。千代の声が響く。
「土方さんスイッチ〜……『ま』!」
千代の声と同時に平助がネットのマンボの曲をスタートさせた。
軽快なサンバのリズムがリビングにながれ、土方が曲にあわせて踊りだす。

「おい……」
「…ああ」
左之、平助、総司は曲にのって踊っている土方を唖然として見ていた。
正直……ウマイ。音楽にあわせて体を動かしているだけなのに。
と、いうより色っぽい。酔ってノリノリのせいもあるかもしれないが、明るいサンバの曲調が逆に男の色気を演出しているではないか。
「……かっこいいね」
千代の言葉に、千鶴はほう…と溜息とついて土方に見とれながら答えた。
「ほんと。かっこいい人は何やってもサマになるんですね……」
千鶴の言葉に総司は心の中で舌打ちをした。これでは逆効果だ。
「……ストーップストップ!土方さんもういいから!」
総司のストップとともに、照明がつけられ、『ま』は終了した。

次は『み』。
土方が提案した「水を飲む」は、左之たちの「つまんねーぞ!」「ひっこめ!」の声で却下された。
平助が言う。
「ミミズを食べる!」
再び、どんなふりだ!おまえ食べたことあるのか!と笑いと共に激しく突込みが入る。「だからそこは土方さんの想像力と演技力でさあ!」と平助は主張したが、これも却下。
「千代は?『み』で何か考えつく?」
千鶴が膝の上の千代を覗き込みながら聞くと、千代はしばらく考えてから言った。
「ミルクをしぼる!」
「おお〜!いいじゃねえか」
今度は斎藤の焼酎を横取りしてぐびぐび飲んでいた土方は、グラスを置くと立ち上がる。千代が言う。
「土方さんスイッチ〜…『み』!ミルクをしぼる〜!」
千代の楽しそうな声とともに、土方は両手をソファの背にかけた。かなり酔っているらしく目がすわっている。そしてその手を怪しくうごめかし始めた。
「どれ…こうがいいか?それとも……こっちか?……恥しがるなよ…大丈夫、痛くなんざしねえよ。……おまえは感じやすいな。その方がいいミルクが出るらしいぜ……」
「わー!!ストップストップ!」
今度は平助のストップが入る。左之も慌ててたちあがり、千代の前に立ちふさがって土方が見えないようにした。
「土方さん、酔いすぎ!」


『む』
「無理ばっかり言う!」「ムスッとする!」「難しい顔をする!」
皆の案は、総司の「そんなの全部いつもの土方さんじゃない。わざわざスイッチでやってもらうまでもないよね」の言葉に却下された。
「何にするんだ?なんでもいいぞ」
余裕の土方。土方に恥をかかせてやろうと企んでいた総司は唇を噛む。
『む』で、土方がやらざるをえないのだけれども恰好悪くてみじめな何か……
思い浮かばない…!
父親が苦しんでいると、千代の無邪気な声がした。
「むずむずする!」
「……」
一拍おいて、爆笑がダイニングを包んだ。
「む、むずむずしてる土方さん……見、見てえ……!」
「お、俺も……!」
千代の期待に満ちた目を見て、土方は困った。しかし結局……
脚を極端に内またにして、困ったような表情で『むずむず』して見せたのだった。


『め』
『む』の衝撃でまだ笑い転げている総司達をよそに、土方は『め』について宣言をした。
「『め』はもう決まってる。『めーいっぱいなぐる』!」
土方の声と同時にげんこつが、総司と左之、平助に落ちたのだった。


『も』
「最後だな。『も』は?千代、なんかあるか?」
土方がそう言うと、千代は待ってましたとばかりに千鶴の膝から滑り降り土方に駆け寄る。
「持ちあげる!」
両手をひろげて抱っこのポーズで飛びついてきた千代を、土方はびっくりしつつも嬉しそうに『持ち上げる』。
「土方さん、ありがとう」
抱き上げられた千代がそう言って、土方の首に細い手をまわし、頬にちゅっとキスをする。
途端、土方の顔がデレッと溶けたのだった。



『おまけ』
ダイニングテーブルに戻った土方は、そのまま千代を膝の上に乗せて座る。
斎藤にワインをついでもらいながら、土方は千代に話しかけた。
「そうか、千代ももう五歳か。大きくなったなあ。大人になったら何になるんだ?」
「さいとーさんのお嫁さん!」
即答した千代に、土方は目を瞬いた。向かい側に座っていた総司は、心底嫌そうに溜息をつく。
「ぼくも今日の昼に初めて聞いたんですよ。悪夢だと思いたいんですけどね」
斎藤が少々照れたように目元をうっすらと赤らめる。
「以前、千代から『お嫁さんにしてほしい』と言われまして……。まあ小さな子どものいう事ですが、そう思われるのは自分としては嬉し……」
「斎藤、お前明日から海外へ移住しろ」
土方の冷たい声が斎藤の言葉をさえぎった。
「もう二度と千代の前に姿を現すな」
唖然としている斎藤と左之、平助の隣で、総司だけがパッと嬉しそうな顔をした。
「めずらしくいいこと言うじゃないですか、土方さん!賛成ですよ僕も。海外と言わず、海底とか月とかに移住したらいいんじゃない?」
「四次元空間でもいいな」
「ジュラ紀にタイムスリップとかもアリですよね」

楽しそうに斎藤の移住計画を話している総司と土方を見ながら、千鶴は溜息をついたのだった。