【ばれんたいん】



サイトで連載していた青藍シリーズのその後です。
沖田さんと千鶴ちゃんの子供としてオリキャラでてきますので苦手な方はブラウザバック!






「はいこれ。プレゼントだよ〜」
ドサッと紙袋を総司がダイニングテーブルの上に置いた。覗き込んだ千代が「わあ!ちょこれーとたくさん!!」と歓声をあげる。
「どうして?こんなにたくさんたべてもいーの?」
興奮したように総司を見上げる小さな千代の頭の上に手を置き、総司はネクタイを緩めながら彼女の髪をくしゃっと乱す。
「今日はバレンタインデーっていってね、男の人がチョコをもらえる日なんだよ」
総司の説明は微妙に間違っている。
そりゃあ総司は小さいころからもてたから、バレンタインデーには必ずチョコをもらえていたのかもしれないが、ひとつももらえない男性だってたくさんいるのだ。
千鶴はそう思いながらダイニングテーブルに夕飯の準備を並べ始めた。
「ご飯ですよ。邪魔だから紙袋どかしてください」
ジャケットを脱いでいた総司は、千鶴の口調が固いのに気が付き動きを止めた。
「どうしたの?このチョコ、もちろん千代だけじゃなくて千鶴も食べていいんだよ、いっぱいあるし」
「……」
千鶴は無言でダイニングテーブルを拭いてから、腰に両手をあてて総司を見た。
「……前々から思っていたんですが、自分が女性からもらったプレゼントをそのまま妻に渡すのってどうなんでしょうか」
「……え?」
なんだか雲行きが怪しげな様子に、総司は視線を泳がせた。
「なにか勘違いしてない?今日はバレンタインデーだよ?会社の女の子たちからのチョコなんて義理にきまってるじゃない」
千鶴はちらりと紙袋の中を見た。
中にはどうみても千円〜五千円はしそうな、ゴディバをはじめ有名バティシエの作ったチョコやら高級ホテルの看板チョコやら義理とはいえ特別扱い用のチョコで満載だ。
いくら会社勤めをしたことのない千鶴でも、女子の常識としてこれが100%義理だとはとても思えない。
別に略奪愛とか本気の告白とかはないのだろうが、女子社員の予算のなかでさえないおじさんと総司とのチョコの格差はかなりあると千鶴は見ていた。
「……たとえそうでも、そのチョコを私が食べるのはその女の人にとっても私にとっても本意じゃないんじゃないでしょうか」
「そんなことないと思うけどなあ。家族持ちの男にあげたチョコは、家族が食べるのは当然だって女の子たちは思ってると思うよ」
「……じゃあ『私にとっては』本意じゃないです」
そういうと、千鶴は台所へと踵を返して行ってしまった。「これ、いまたべていいの?」と聞いてくる千代に、総司は「夕飯まえだから後でね……あ、いやママに聞いてからね」と言ってから、台所の千鶴に聞く。
「じゃあ、このチョコどうするの?返してきてってこと?」
お盆に乗せた夕飯―――今日はから揚げ――を運びながら千鶴は冷たく返事をした。
「総司さんがもらったんですから総司さんが食べればいいんじゃないですか?」
「ええ!こんなに食べられないよ」
「たいへんですね」
にっこりと微笑む千鶴を見て、総司はもうこれ以上この話題は止めた方が良いことを悟った。千代と二人で、千鶴のいないところでちびちびと片付けなくてはいけないらしい。
まあ、しかし総司は千鶴にやきもちをやかれるのは大好きなので、ぷりぷり怒っている千鶴の姿を見るのは楽しい。

来年からはいろいろ考えなきゃなあ

そんなことを思いながら、総司はチョコの紙袋を千鶴の手が届かない高い棚の上にこっそりと隠したのだった。



――数年後

「……なんてことがあってさ。僕はもう怖くて怖くて」
からかうように千鶴を見ながらそう言う総司に、千鶴は頬を赤らめた。
あの時のバレンタインデーの一か月後に、千鶴は第二子を妊娠していたことが判明したのだ。
つまりあの時は妊娠初期の不安定な精神状態のせいであんなにいらいらしていたらしい。
「あれは、だから後からあやまったじゃないですか。今はもう全然そんなこと気にしてないし、あの時なんであんなに怒っちゃったのか自分でもよくわからなくて。でも、それで今年もチョコを持って帰ってこないんですね。去年もそうでしたけど、どうしてるんですか?会社で食べてるんですか?」
子どもが寝た後、遅く帰った総司に夕飯を出しながら千鶴が聞く。総司は首を横に振った。
「いや、チョコがもったいないし妻が鬼のように怒るから、バレンタインデーのチョコは気持ちだけもらっておきますって社内全部に報告したんだよ」
「……」
千鶴は醤油さしを傾けたまま固まった。
「わわっ千鶴!醤油醤油!溢れてる!」
沖田家特製にんにく抜き野菜ぎょうざが醤油であふれる。
「……総司さん、妻が鬼のように怒るからって……本当にそう言ったんですか?」
総司は、何をそんなに何度も聞くのかと頭をかしげて千鶴を見る。
「そうだよ?すぐ次の日に社内メールと掲示板で」
「きゃああーーーーー!!!なんてことを!恥ずかしい……!すぐ訂正してください!もおおっ総司さんのバカ!」
ぽかぽかとたたいてくる千鶴を、総司は笑いながらかわす。
「何言ってるのさ。もう何年も前から重要周知事項として社内掲示板に載り続けてるのに今更…」
「いやああ!もう総司さんの会社のバーベキューには行けません!」
悶えている千鶴を見ながら、総司はのんきに夕飯を食べだした。
「千鶴がバーベキューに来なくなったら今度は皆から『鬼のような奥さんをまた怒らせたんですか?』って聞かれちゃうなあ〜」
「総司さん!!」
顔を真っ赤にして怒っている千鶴を肴に、総司は夕飯を楽しくいただいたのだった。

そしてもちろん……
「で、鬼のような妻からの今年のチョコは?」
「……ありますけど……」
ぷうっとふくれた愛妻から、めでたく総司は今年もチョコをもらえた。




おまけ

「総司さんにあげたチョコ、千代と一緒に作ったんですよ。千代からパパへのチョコも預かってます」
娘からのチョコは、子どもらしいかわいいピンクの紙で丁寧にラッピングされたもので、中身のチョコは千鶴のトリュフと同じ作り方のアーモンドチョコだった。
一生懸命作っている千代の姿を想像して、総司はデレッと嬉しそうな顔になる。千代のを一口食べて総司は言った。
「ん、おいしくできてる。お父さんにチョコなんでまだまだ子供で可愛いよね」
自分ひとりにしかチョコと作っていないと思い込んでいる総司に、本当のことを言っていいものかどうか千鶴は一瞬固まった。その表情を見逃さなかった総司が聞く。
「……何?まさか他の男の子につくったとか?まだ小学1年生なのに?」
「男の子っていうか……斎藤さんに」
「……」
「一応メールで千代がチョコを渡したがってるって斎藤さんに伝えたら、それは嬉しいっておっしゃってくださったので、今日の夕方職場まで千代を連れて行って渡してきたんです」
「……」
斎藤に渡しに行くときに『ほんめいなの…』と千代がこっそり千鶴に打ち明けてくれたことは総司には秘密にしておこうと、未だ固まっている総司を見ながら千鶴は思ったのだった。





千代のチョコレートのショックを、総司はその後千鶴にベッドで優しく慰めてもらった。
というか、強引に慰めてくれと迫ったと言う方が正しいが。
余韻でまだトロンとしている妻のこめかみに優しくキスをしながら、総司はふと思い出して言った。
「そういえば明日の夜、僕飲み会だ」
「……そうなんですか?じゃあ夕ご飯は……」
「うん、いいよ。土方さんとか平助とかのみんなで。……一君も来るんだよね……」
総司の緑の瞳がきらんと光るのを見て、千鶴は総司の耳を引っ張る。
「いい子にしていてくださいね?」
「……」
返事をせずににっこりと微笑む夫に、千鶴が不安になったのは言うまでもない。





「で?一君は昨日のバレンタインデー、チョコいくつもらったの?」
ビールを一のグラスに注ぎながら総司は聞いた。
「数えてなどいないと先ほどから何回も言っているだろう」
「ふーん、まあ数はいいや。誰か大事な人からもらった?」
何度目かの総司からの同じ質問に、一は大きく溜息をついた。同じ席に座っていた土方や左之、平助がこそこそと話す。
「おい、総司のヤツなんで今日はあんなに絡んでんだ?」
「さあ?今年はあいつ千鶴ちゃんからチョコもらえなかったとかなんじゃねえか?」
土方達の会話には耳を貸さず、総司は自分のグラスのビールを空けた。
「僕はね、愛しの妻と娘からもらったよ。斎藤君、僕に気を使ってくれなくていいよ。千代からもらったんでしょ?嬉しかった?」
斎藤は総司を見ると、うんざりした顔で言う。
「別にお前に気を使っているわけではない。千代からは……まあもらった。うまかった。礼を言っておいてくれ」
「自分で言えば。あーあ、千代はなんでこんなのがいいんだろうなあ。ほんとに男の趣味を疑うよ。将来が不安だなー、大丈夫かな」
ネチネチネチネチと絡む総司に、斎藤はいい加減嫌になりながらも性格からフォローをいれる。
「子供のきまぐれだろう。そんなに気に病むことはないのではないか。お前だって千代からチョコレートをもらったのだろう?」
「もらったよ。千鶴からも。まー、千代は一君にチョコをあげたかもしれないけどね、でも千鶴も千代もどっちも僕のものだからさ。斎藤君も早く結婚しなよ。そんで僕みたいに、可愛い奥さんからチョコもらえば、もう人の娘に手をだしたりしなくなるんじゃない」
「手をだしたりなどしていないと何度も言っているだろう。それにチョコは――」
言いかけて、斎藤は口をつぐんだ。
いや、これは今総司には言わない方がいいだろう。

千代からチョコをもらった時に、千鶴からももらっていると言えば総司がどれだけからんで来るかわかったものではない。

斎藤が賢明にもそう思い言葉を呑みこんでいると、机の反対側で平助も口にチャックをしていた。

俺も千鶴からチョコもらったことは総司には言わねーでおこっと。
しかも俺、14日には会えないからってんで、その前の週末にもらってんだよな。総司に言ったら『僕より先にもらうってどういうこと』とか言ってきそうだしな

総司は千鶴と千代以外からの誰からもチョコはもらわないようにしているのに、彼女たちがいろんな男にチョコを渡しているのは皮肉ではある。皮肉ではあるが、総司がこれまで他の女性たちからもらってきたチョコの数を考えれば、これでトントンだろうと平助は頷いたのだった。