【ごめんね?】

※DEARESTオフ本書下ろしの「信じていることと腹が立つことは別です」というSSの続きになります。
読んでない方は…うーん…あまりわからないかもしれませんが、要は沖田さんが悪いことをして千鶴ちゃんが怒ってるところから始まります。
オフ通販のところにちょっとだけサンプルと大体の話が書いてありますのでよければ参考にどうぞ。
沖田さんがした「悪いこと」は浮気ではないです。

 

 「千鶴ちゃん、ほら、駐車場こっちだからさ。ね?電車だと時間かかるし乗り換えあるし大変だよ。一緒に車で帰ろう?」
千鶴の買った大荷物を抱えながら、総司は地下鉄の駅へと向かおうとする千鶴を追いかけ声をかける。千鶴は当然無視だ。目もあわさずに速足で歩き続ける。
総司は溜息をついて荷物を全て片手に持ち替え、空いた方の手で千鶴の手首をつかんだ。
「ほら、もうすぐ暗くなるし結局家の最寄駅から家までは車で迎えに行かなきゃいけないんだしさ。ね?僕が悪かったよ。謝るから今は一緒に車で帰ろう?」
確かにここから千鶴が一人で電車で帰れば、総司の家の最寄駅に着くころには真っ暗になっているに違いない。そこから歩いて帰るのは、治安のいい高級住宅街だとしても心配をかけるし、タクシーにわざわざ乗るのも、庶民の千鶴としては気が引ける。
「……」
千鶴は相変わらず目を合わさないまま、不承不承総司に手を引かれて駐車場へと足を向けた。

エンジンをかけ滑らかに車をスタートさせてからも、総司はちらちらと千鶴を見てご機嫌をとる。
「ねえ、黙って見てたのは悪かったよ。あと指輪についてもホントごめん。そもそも最初に僕に相談してくれれば一人でなんか行かせなかったんだよ?」
「……沖田さんは朝帰りで眠いだろうと思って」
ちくりと嫌味を入れた千鶴の返事に、総司はアイタッというふうに片目をつぶる。
「だからさ、それも別に僕が行きたかったわけじゃないんだってば。ああいう店の女の子は別にタイプじゃないし、っていうより僕にはもうちゃんとお嫁さんが居るじゃない。浮気を責められるなんて信用されてないみたいで心外だなあ」

浮気……を責めているわけではない。信用は一応している。
ただ不愉快なのだ。先ほど千鶴が言った、『信じていることと腹が立つことは別』というのはそのまま本当だ。
そして千鶴的には決死の覚悟で戦ったのに、総司の態度がアレだというのにも腹が立つ。理路整然と責めて、『だからこうしてください』といえるようなことは何もないけれど、このまますんなり許して元通りになる気にはとてもなれない。

「……」
千鶴が相変わらず無言で窓の外を見ていると、信号待ちをしている最中に総司がそっと手を握ってきた。そして顔を覗き込む様にして甘えた表情をする。
「ほんとにごめん。悪かったと思ってるよ。機嫌直して?なんでもするからさ」
最後の言葉に、千鶴はぴくりと反応した。
「……なんでも?」
千鶴が口をきいてくれたので、総司はパッと嬉しそうな顔になる。うんうんと頷きながらこたえる。
「なんでも。なにがいい?ブランドバックでも洋服でも……後は何?女の子が好きそうなもの……エステとか?海外旅行とかでもいいよ。
前に比べればかなり余裕があるしさ。おねだりきいてあげられるからおねだりしてくれたら逆にうれしいな」
信号が青にかわり、総司は前を向いて再び車を発進させる。
千鶴は考えを巡らせながら呟いた。
「なんでも……ですか……」


「ごはんですよ〜」というお手伝いの多恵さんの声に、その時家にいた土方、斎藤、総司は食堂に集まった。ミツと母親は二人で旅行中だ。
千鶴は…と総司が視線を彷徨わせると、多恵さんと一緒に台所から出てくる。
「あれ?」という表情をしている男性三人に、千鶴はにっこりとほほえんで説明した。
「今夜は人が少ないですし…お邪魔はしないのでって多恵さんにお願いして沖田さんの食事だけ私につくらせていただいたんです」
千鶴の言葉に総司は目を瞬いた。
機嫌が悪いままかと思っていたら手料理とは……機嫌を直してくれたのだろうか?
「お熱いこって」といいながら席に着いた土方、無言の斎藤と一緒に総司も自分の席に着く。
多恵さんが運んで来た土方と斎藤の料理は……
「お!今日はステーキか!」
「冷奴もあるな」
土方と斎藤が嬉しそうに言うと、多恵さんがにっこりして言う。
「今日の人数分しかお肉がなくてちょうどよかったんですよ。どうぞ召し上がれ」
嬉しそうに食べだす二人を後目に、総司はちょうど台所から夕飯を運んで来た千鶴を見る。トン、トン、トン…と置かれていく料理を見て、総司は固まった。
「……千鶴ちゃん、これ……何…」

ピーマンのあげびたしに焼ピーマンの大根おろし添え。ピーマンの千切りとニンニクの炒め物にピーマンと鰹節のサラダ。最後に出てきたメインディッシュはピーマンの肉詰めだ。

総司がピーマンを嫌いなのは、土方も斎藤も知っている。二人は総司の前に並べられた皿と、千鶴の顔と、総司の顔をそれぞれ見て、なにも言わないことにしたらしい。もくもくと自分の食事に集中しだした。
「沖田さんの夕ご飯です。『なんでもする』っておっしゃってくださったので、じゃあ私の手料理を食べていただきたいな、と」
ひんやりとした千鶴の答えに、土方と斎藤は聞こえないふりでステーキを食べる。
「ってこれ……全部僕食べられないんだけど」
総司が唖然として言うと、千鶴の目がキラリと光った。
「食べられない……。あんなことやこんなことをして、さっき謝ってくださって『なんでもする』って約束したのは嘘だったってことですか?」
総司より女経験が長い土方が、これはヤバいとふんですかさず総司に言った。
「ほら!食えよ!ここは文句言わずに食うところだ。虫とか毒とかじゃねーんだ、死にゃあしねえよ!」
斎藤も援護射撃をする。
「約束したのだろう?約束は大事なことだ。破れば信用にかかわる」
総司は憮然とした表情で土方と斎藤を見た。
「そりゃ、君たちはステーキをパクパク食べてるからなんとでも言えるよね」
「いや、そもそも総司は好き嫌いが多すぎる。俺はたとえそちらの方のメニューでも、愛しい嫁の手作りだとしたら喜んで食べる」
「そうだぞ、斎藤いいこと言った!俺もピーマンぐれえで嫁の機嫌が直るんならいくらでも食うな」
「……」
アウェーな空気に、総司は口を噤んで自分の前のピーマンの群れを見る。千鶴は…と顔を見てみると、怒っている顔をしているものの目は悪戯っぽく輝き、総司が困っているのを楽しんでいるようだ。

「……これを全部食べたら、ほんとに昨日と今日のことは一切許してくれるの?」
総司が言うと、千鶴は考えるように首を傾けた。
「まだもう一つお願いが……」
「な、何?今度はネギ丼とかやめてよ!?」
ビビる総司に千鶴は首を横に振った。そして言いにくそうにして頬を染める。
「……その、ああいうお店に行くのは、仕事でしょうがないときもあるっていうのはわかっています。だから行かないでくださいとは言いませんが……その、あの店にはもう行かないで欲しいです」
斎藤が口をはさんだ。
「あの店、とは昨夜行った我々がよく使っている店のことか?」
千鶴がうなずくと、土方も小さくうなずいた。
「まああの総司に惚れてる女はなあ…、確かにあんなところに旦那が行くのは嫁としてはいやだよな」
総司は肩をすくめた。
「別に僕はどの店だろうと一緒だから全然かまわないよ。マリがあのあとどんな顔をするか見てみたい気もしたけ……」
「それもやめてください」
総司の言葉にかぶせる様に、千鶴の堅い声が響いた。その強張りように男性三人はビクリと椅子の上で姿勢をただす。
「そ、それって?」
おそるおそる総司が聞くと、千鶴は視線をそらせて言った。
「……その、他の女の人を呼び捨てで名前を呼ぶとか、そういうの、です」
千鶴の言葉に男性三人は顔を見合わせた。
総司の顔をみて土方が舌打ちをする。
「何嬉しそうな顔してんだよ」
「え?僕?そうですか?」
ニヤニヤ笑いながら言う総司に斎藤は呆れたように言う。
「結局落ち着くところはイチャイチャとノロケということか」

総司は溜息をついて、改めて自分の前のピーマンの山を見た。
嫁のかわいい嫉妬も聞けたし、あとはこれを平らげるだけだ。
「あの店にはもう行かない。あの女の話ももうしない。名前もよばない。そしてこのピーマンを全部食べる。そうしたら許してくれるんだね?」
千鶴は頷いた。
「はい」
「後からネチネチ言うのとかなしだよ?」
「約束します」
総司は箸をとった。
「……よし…!」

キッチンの陰からはお手伝いの多恵さんが、ダイニングの総司の様子を見ていた。
離乳食の頃からどんなに細かくしても何と混ぜても、絶対ピーマンだけは食べてくれなかったあの総司ぼっちゃまが……!
多恵さんの目は、感動で潤んでいたのだった。



「うえっぷ……」
口を押えて机に突っ伏した総司に、土方と斎藤は拍手する。
「おー!よくがんばったじゃねえか」
「やればできるのだな」
あれから1時間半。総司の前のピーマンの群れは綺麗に総司の胃に収まっていた。
「食べたよ、千鶴ちゃん」
心なしか青ざめながら総司が言うと、千鶴は皿を下げながらにっこりと微笑む。
「おそまつさまでした」

総司には悪いが、涙目でピーマンを口に運んでいる総司を見ているのはかなり楽しかった。
途中ちょっと可哀そうかな…と思ったものの、ピーマン自体には栄養はあるのだし、と思い直す。実際これでかなり溜飲が下がったのは事実だ。
総司の皿を食洗機に入れて、食後の緑茶を皆の分いれてダイニングにもどると、総司がいなくなっていた。
「沖田さんはどうしたんですか?」
土方が千鶴の出してくれたお茶を飲みながら、顎で廊下の方を指した。
「腹が一杯過ぎてちょっと寝室で横になるってよ。出て行ったぜ」
千鶴は慌てて後を追いかけた。気持ちが悪くなったりしたのだろうか。ちょっと意地悪をしすぎたのかもしれない。
廊下でよろよろと歩いてる総司に声をかける。
「沖田さん!……大丈夫ですか?」
総司は立ち止まって壁によりかかった。
「……自分の吐く息がピーマン臭いんだよね……」
その言い方が哀れで、千鶴は思わず吹き出した。
「ぷっ…ごっごめんなさい……」
ころころと笑いながら千鶴が総司を見上げると、総司は腕を組んで妙な表情で……いや、これは『黒い笑顔』と言われるアノ表情だ。それで千鶴を見ている。
「…な、何ですか?」
「契約事項の……いくつだったかな?」
「え……きゃ、きゃあ!」
いきなり抱き上げられて、千鶴は驚いて叫んだ。総司はまるで米袋を担ぐように千鶴を肩に担ぎ、がっしりと押さえつける。
「ちょっ…お、沖田さん何を……離してください!お、おろして……」
「『苦いものを食べた後は、千鶴ちゃんで口直しさせてくれること』ってのがあったよね、確か」
そういいながら総司は自分たちの寝室へ歩き出す。
「け、契約事項はもう無効だって…」
「やっぱ有効にした。これから一緒にお風呂にはいること」
「え、ええ!?」
「一生分のピーマンを食べたからね。たーーーーっぷり口直しをさせてもらわないと」
「お、沖田さん、待って…ちょっと待ってください!あの…」
「待たない」

千鶴は、二人の寝室の続きにある、プライベートな風呂目指して運ばれていったのだった。














Thanks for sakuya♪

 

 


                          


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