【WILD WIND その後】






遅い朝飯を食べに大食堂のような旅籠の広間に行ったら、小間使いの女性から手紙を渡された。
平助と左之からの手紙で、斎藤はガサガサと読んでみると。
「平助君たちからですか?一緒の旅籠なのに何故手紙なんて……?」
千鶴は首をかしげている。斎藤は読み進めて行き、「なるほど」とつぶやいて手紙を千鶴へ渡した。
その手紙には、一足先に左之と平助二人で江戸へ帰ること、千太郎の様子も見ておくから心配しなくていいこと、斎藤達は以前東北に住んでいたこともあるのだからせっかくだからそちらの様子を見たりお世話になった人に挨拶したりしてからゆっくり江戸にもどってはどうか、ようやくの夫婦水入らずなのだから、というようなことが書いてあった。
手紙を読んでいた千鶴が、「まあ……」と小さな声を上げる。
「平助にしては気が利いている。左之が言いだしたのだろうな」
斎藤は微笑みながらそう言うと、千鶴を促し朝食の膳についた。
「もとの職場の皆にも、会津の時にお世話になった方々にもロクなあいさつもせずに東北を後にしてしまったと気にはしていたのだ。お前さえかまわなければ、一度あの家に様子を見に行きたいと思うのだが、どうだ?」
千鶴はにっこりと微笑む。
千鶴も帰りたいと思っていた。
江戸の家も、それは実家だし近所の人はみないい人たちばかりだし……でも、東北の斗南のあの家は、二人で築いた初めての家なのだ。
斎藤が作ってくれた槇置場は、今はどうなっているだろうか?
二人で選んだ家の道具も、きっとそのままになっているに違いない。
 
斎藤に酒を渡して、祝言をちゃんとあげる様にと言ってくれた、あの隣人は元気でいるのだろうか。
あの桜の木は今もちゃんとあの小さな庭にあるのだろうか。記憶をなくしていた間、何回も春が廻ったがちゃんと花を咲かせたのだろうか。

きっと二人が行ったら、皆喜んでくれるだろう。
季節もちょうどよく、楽しい旅になるに違いない。
これからの長い二人の生活から考えると、ほんの少しの期間だが、二人で過ごすことができるのはきっと素敵だ。

「はい、二人で行きたいです」

千鶴の澄んだ声に、斎藤も微笑みながらうなずいた。

そう。
二人で。
ずっと一緒に。










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