マクドナルドで夕食を ED後
「まずい」
一口食べてきっぱりと風間は言った。千鶴は、やっぱり…と周りの目を気にして肩をすくめる。
マクドナルド店内でかなり目立ってしまった風間と千鶴は、テーブルに着いた後も周囲の注目を集めているのだ。
「何だこれは。馬のエサか」
風間は、食べた一口分も飲みこむのが嫌そうだったが、さすがにそれはガマンして飲みこんだ。しかし持っていたダブルチーズバーガーは、トレイに戻されてしまった。
千鶴は心の中で周りの人に謝る。
す、すいませんすいません…!この人はマクドナルドを決してバカにしているわけではなくて単にちょっと浮世離れしすぎてるというか俺様というか……
千鶴は頼んだ月見バーガーとポテトを持って立ち上がった。
「風間さん、もう食べないんですよね?でましょうか」
「何故だ。俺はもう食わんがお前はまだ何も食べていないだろう。こういうところでこのような味覚が破壊されそうな夕食を食べながらつまらん世間話でもする『デート』が、お前はしたいのだろう?」
「……それはそうですけど、『楽しく』食べたいんです」
千鶴はそう言うと、カバンを持ってレジへと行った。そこで紙袋をもらい、食べられなかった月見バーガーセットは持ち帰りにする。
風間が立ち上がると、少し距離をあけて座っていたブラックスーツの男二人が音もなく立ち上がった。
長身のスーツ姿の男三人は、くだけた客が多いマクドナルド店内ではかなり目立つため、再び店内の会話が止まり注目をあびる。
千鶴はその注目の中、汗を掻きながら再び席へ戻り、当然のように机の上に残されたトレイと風間の食べ残しを持ってゴミ箱へ行く。
風間は千鶴の後をついてきて、千鶴が飲み物を捨て、紙類をゴミ箱に捨てるのを興味深そうに見ていた。
「なるほど、セルフサービスで単価を抑えている訳だな」
「そうです。ここで食事したら『自分で』やるものなんですよ」
千鶴はイヤミっぽくそう言うと、何故か無意味に周りの人にペコペコ会釈しながら出口へと向かった。ここのマクドナルドには大迷惑をかけてしまった。
店の外に出ると、黒いスーツの男たちがあらかじめ連絡していたのか、スッと黒い高級車が近寄り停まった。
「行くぞ」
「……は?」
当然のように風間に言われて、千鶴はいぶかしげに首をかしげた。「どこにですか?」
「口直しに決まっているだろう。結局俺は夕飯は食べていないしな」
「私、持ち帰りにしてもらったんで大丈夫です。あの、これ……おごっていただいてありがとうございました。ごちそうさまです」
千鶴がそうお礼を言うと、風間は微妙な顔をした。
そしてそのまましばらく千鶴を見つめると、大きく溜息をつく。
「……なにが楽しいかわからんな、お前の言う『普通の彼氏彼女のつきあい』というものは。うまいものは食べたくはないのか」
「別にマクドナルドだけがデートの店ってわけじゃなくて……っていうより普通の恋人とのデートはマクドナルドにはそんなに頻繁には行かないような……」
「ではどんな店がいいのだ。俺は腹が減った」
「だから、私は持ち帰りを……」
「俺は持ち帰りはしていない。だから俺の夕飯につきあえ。……これがお前の希望した付き合い方だろう?」
「でも、じゃあこのハンバーガーがもったいないじゃないですか」
頑なな千鶴に、風間は目を細める。機嫌が悪くなった印だ。
「……もういい、乗れ」
風間はそう言うと、千鶴の手首をつかみ強引に車に乗り込んだ。
「ど、どこに行くんですか?私、千ちゃんの家に居候してるんでそんな遅くには……」
「俺の東京のマンションだ。千には外泊すると言えばいいだろう」
「えっ?風間さんのお家ですか!?がっ…!外泊なんてしま、しませんよ?な、何を……!!」
真っ赤になって怒ったように言う千鶴に、風間は面白そうな顔をする。
「何を誤解している。……いや別に俺のマンションに泊まっても構わないが、帰る時間が問題なのならホテルぐらいはとってやるという意味だったのだが」
「……」
千鶴は、さらに赤くなって俯いた。
「……で、でも明日も私、朝から用事があって忙しいのであんまり遅くまでは……」
「俺のマンションで、俺がハンバーガーを作ってやろう。バンズはないから買っていく必要があるな、あと牛のミンチと、トマトとレタス、オニオンはあるがチーズはないな……おい、明治屋に寄ってくれ」
後半は前の運転席にそう言うと、風間はシートに寄りかかった。
「ソースはなにがいい?和風か洋風か……バーベキューソースのようなくだけた方が合うかもしれんな。だがいい素材ばかりだから塩コショウにトマトソースだけでも上手いだろう」
ゴクリ…と不本意ながら千鶴の喉がなった。お腹も、きゅう〜…と音をたてる。
「……塩コショウとトマトソースが……おいしそうです……」
結局デザートのアイスクリーム(濃厚バニラに岩塩をふりかけエキストラバージンオイルをかけたもの)まで、千鶴はペロリと平らげてしまった。
自分の家だからか、リラックスした風間は意外に楽しい話相手で、千鶴は時間を忘れて楽しい夕食を過ごすことができた。
皿をキッチンに運ぼうと二人で立ち上がったときに、ふと目があい、どちらともなく唇を寄せる。
甘くて少ししょっぱいキスの後、『泊まっていけばいい』という風間の誘惑を何とか振り切って、千鶴は千の家まで帰ったのだった。
【終】
あの、私、マクドナルド好きです…。おいしいですよね。月見バーガーとベーコンレタスバーガーが好きです。
そしてこれを書いている今、たいへんお腹が減っております……ダブルチーズバーガーが食べたい……
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